本年度の成果を以下に列挙する (1)CaPd3O4系においては、PdをCuで部分置換し、85%まで置換することに成功した。これはほぼCaCu3O4という未知の銅酸化物を作成したに等しい。その伝導性、磁性を系統的に測定し、とくに磁化の解析を詳しく行った。その結果、この物質の特徴的な結晶構造のために、最近接のCuーCu相互作用より次近接相互作用が重要であることが明らかになった。磁気的基底状態についてはまだ解析と多角的な測定が必要であるが、スピングラスか反強磁性秩序が生じていると考えられる。Cuを60%置換した試料では磁気的異常が10K付近に生じ、更にCuを増やすと転移温度は20Kまで上昇した。 (2)PbPdO2系においては、PbをAgで10%置換することでキャリアをドープできることがわかった。その大きさを帯磁率から見積もると、仕込みのAgの量と良い一致を示した。ただし、さらなるAg置換によって伝導性は向上しない。この状態でPdサイトに様々な磁性イオンを部分置換し、その輸送特性を精密に測定した。残念ながらCuのドープに対しては電気伝導にエネルギーギャップは観測されず、磁気的にも孤立スピンの作るキュリーテールが低温で確認できたにとどまった。このことは理論的に予測されたスピンギャップレス半導体のような電子状態を創りだすことができなかったことを示唆する。Niのドープについては、奇妙に大きな常磁性成分が現れており、その起源についてはよくわからない。今後、より詳細な研究が必要である。
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