研究課題
スピンアイスの興味深い物理は多くの注目を集めてきた。我々は、量子揺らぎがスピンアイスにどのような影響を及ぼすのかを調べるため、量子スピンアイスYb2Ti2O7とPr2Zr2O7の熱伝導測定を行った。Yb2Ti2O7はTC=0.2Kで強磁性状態に一次相転移する。これまでの研究から、TC以上、モノポールの励起エネルギー2J=4K以下の温度領域においてスピンアイス相関を持つことが報告されている。我々の測定により、この温度領域でのみ、磁場とともに熱伝導がゼロ磁場近傍では減少し、その後増加に転じることが分かった。この非単調な磁場依存性はスピン‐フォノン散乱と低磁場領域における磁気励起による熱伝導によって良く説明される。この磁気励起の寄与は、スピンアイス相関が発達している温度領域にのみ現れることから、磁気モノポールの伝導と考えるのが最も自然である。そして、解析から得られたモノポールの励起エネルギーは、古典モノポールで予想されるものより大きく減少しており、量子揺らぎによりモノポールが分散を持っていることを示唆している。これらの結果は、拡散によって運動する古典モノポールとは対照的に、分散を持つ量子モノポールが、長い平均自由行程を伴って結晶中をコヒーレントに運動していることを示唆している。一方、Pr2Zr2O7では、極低温まで磁気秩序は観測されておらず、量子スピン液体状態が実現している可能性がある。我々の測定によって、約0.2K以下で、温度減少とともに熱伝導割る温度が異常増大することが分かった。モノポールの励起エネルギーは1.6Kと見積もられており、0.2Kではモノポール密度は無視できるほど小さくなっている。したがって、この異常は、スピンアイスの縮退を解く新しい素励起 「フォトン」の存在を示している可能性がある
1: 当初の計画以上に進展している
我々は量子揺らぎの強いスピンアイスYb2Ti2O7の、磁場中極低温における熱伝導測定を行った。この測定から、磁気モノポールの熱伝導を観測し、その特異な振る舞いを明らかにした。その結果をNature Communicationsに論文として発表した。(Nature Communications 7 10807 (2016))これは平成27年度に予定していた計画であり、すでに達成することが出来た。現在は、平成28年度に予定していたPr2Zr2O7の測定が、ある程度進んでいる状況である。我々の測定結果は、新奇素励起「フォトン」の兆候を示している。
平成28年度の計画は、初年度に行ったYb2Ti2O7の熱伝導測定で得た知見を基に、Pr2Zr2O7などといった多くの注目を集めている量子スピンアイス物質の熱伝導研究につなげることである。現在、すでに新奇素励起「フォトン」の兆候を見つけることが出来ている。様々な磁場方向や熱流方向依存性を測定し、この素励起の未知なる性質を明らかにする。新奇素励起のどのような性質が期待されるか、また実験結果の解釈など、理論家と議論をしつつ研究を進める。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 3件)
Nature Communications
巻: 7 ページ: 10807
10.1038/ncomms10807
Science Advances
巻: 1 ページ: e1500001
10.1126/sciadv.1500001