研究課題
パイロクロア構造を持つ幾つかの希土類酸化物は、スピンアイスと呼ばれる特異な性質を持つため現在盛んに研究が行われている。特に磁気モーメントが小さく量子揺らぎの強いYb2Ti2O7やPr2Zr2O7といった、量子スピンアイスと呼ばれる系の性質は良く理解されていない。理論的には、フォトンと呼ばれる特異な素励起を伴う量子スピン液体が基底状態と考えられている。このことから、実験的に上記の物質における素励起の性質を調べることが量子スピンアイス系の理解に貢献すると考えられる。平成27年度に、量子スピンアイスPr2Zr2O7での熱伝導の0.2K以下の低温での異常増大を観測した。この非常に低い温度スケールは、フォノン、磁気モノポールといった他の素励起のエネルギースケールよりもずいぶん小さいため、量子スピンアイスの最も低エネルギーの素励起である、フォトンのものである可能性がある。最終年度の平成28年は、この異常の起源を調べるため、詳細な熱伝導測定を引き続き行った。異なるサンプルで熱伝導を測定したところ、同様の熱伝導の異常増大が見られた。また、磁場依存性は異なる温度領域で、全く違う振る舞いを示す。特に上記の熱伝導の異常増大が観測された低温では、異常な熱伝導の寄与が[111]方向の磁場によって抑えられることを観測した。理論的にはこの方向での磁場がスピンアイス相関が抑制されることが予想されるため、磁場依存性がフォトンの熱伝導という解釈と矛盾がないことが分かった。
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