研究課題/領域番号 |
15K13524
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
伊藤 哲明 東京理科大学, 理学部, 准教授 (50402748)
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研究分担者 |
小林 夏野 岡山大学, その他部局等, 准教授 (60424090)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 磁性 / 非従来型電気磁気効果 |
研究実績の概要 |
本研究では、空間反転対称性を持たない三方晶単体Teに対し、パルスdc電流印加によって電流誘起磁性(スピン偏極電流)が発現することの実験的検出を目標としていた。 この目的のために、まず、NMR測定をパルスdc電流印加と同期させる測定システムの構築を行った。これにより、1ms程度の時間のパルス電流印加下におけるNMRスペクトル測定を可能とした。次に、大電流印加のため、単体Teに対する良質な電極作成法の探索を行った。様々な電極を試した結果、Ti+Au蒸着膜の上に常温銀ペーストで電極を作成する方法が最も良質な電極となることを見出した。以上の方法のもと、大電流を印加しながらジュール熱の影響なしに125Te-NMRスペクトルを測定することを可能とした。 これらの下準備のもと、単体Teに対し、最大500mAのパルス電流印加をしながら125Te-NMR測定を行った。結果、125Te-NMRスペクトルが電流印加により明確にシフトすることを見出すことに成功した。さらにこのシフトは印加電流に比例しており、また電流を反転させるとシフトの向きも反転することを明らかとした。これらのことは、非磁性半導体と認識されていた単体Teに電流を流すと、その電流に応じた磁化が現れることを明確に示している。この成果は、従来議論されてきたマルチフェロイクスの枠組み等とは本質的に異なる新奇電気磁気効果の提案・検証に成功したものであり、電気磁気物性論の大きなブレークスルーとなるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の大きな目標の一つは、従来議論されてきているマルチフェロイクスの枠組みとは本質的に異なる、新奇電気磁気効果の提案・検出であった。これは萌芽性の高い挑戦的テーマであったが、研究一年目にして、単体Teにおいてこの効果を明確に検証することに成功し、本研究で掲げていたこの目的は完全に達成された。従って本研究は、当初の計画よりも大きく進展していると結論できる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の成果により、電流印加によりTe中には磁化が発生することが見出された。この原理を応用し、本年度は、ac電流印加によりac磁化を発生させ、これによる共鳴型核スピン制御を試みる。 具体的には、昨年度に構築したdcパルス電流印加システムのdc電源の代わりに、ac電源(シグナルジェネレーター)を用い、試料に直接パルスac電流を印加し、このときの核スピン応答をNMRスペクトロメータで検出することを試みる。 これにより「電流印加による核スピン制御」という、従来議論されてこなかった新たな核スピン操作法を実証することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の大きな目的は、単体Teに対し「電流印加を行うと磁化が発生する」という新奇電気磁気効果を検出することであった。この効果の検出に適切なTeのキャリアードープ量は不明であったため、実験的にキャリアードープ量を振りながら上記効果の検出を目指そうと計画していた。しかし、最初に試した比較的高純度の試料で、上記効果を明確に見出すことに成功しため、キャリアードープ量を振った試料の作成は必ずしも必要ではなくなった。従って、このために計上していた予算は次年度の「ac電流による核スピン制御」計画に有効活用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
2年目で計画している「ac電流による核スピン制御」の実験は、核スピン操作を行いやすい低温で行うこととなる。このため、低温機器等に予算を振り分けることとなる。また研究実績の概要で示したとおり、既に1年目にして、電気磁気交差物理学の大きなブレークスルーとなる成果が得られており、積極的にこの成果を発信していく必要がある。このための予算も計上する。
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