研究課題/領域番号 |
15K13527
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
高橋 圭 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 上級研究員 (90469932)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | トポロジカル絶縁体 / 人工格子 |
研究実績の概要 |
本研究で提案している手法であるトポロジカル絶縁体薄膜の積層構造合成の実験を行った。強磁性トポロジカル絶縁体薄膜を用いて積層化による素子特性改善を目指した。トポロジカル絶縁体の(Bi0.12Sb0.88)2Te3にCrを添加した磁性トポロジカル絶縁体Cr0.2(Bi0.12Sb0.88)1.8Te3を積層させた新しい人工積層膜を作製した。この構造にトップゲート型の電界効果型トランジスタ構造を作製し、ホール抵抗を測定したところ、積層構造を使わないトランジスタに比べ10倍高い温度(0.5 K)でホール抵抗が量子化抵抗値(約25.8kΩ=h/e2)で一定となり、整数量子ホール状態になっていることを確認した。 また、このような積層構造では反転対称性が破れている。反転対称性の破れによりジャロシンスキー・守谷相互作用が働き、スピンがらせん状に巻くことが知られているが、その効果によってこの系では磁気秩序がネールタイプのスキルミオン構造に安定化されトポロジカルホール効果と呼ばれる異常ホール効果が発現することを見出した。このように、トポロジカル絶縁体を適切に積層することで、量子化を単一層で報告した従来の結果よりも高温・弱磁場で観測可能となることを示し、また反転対称性の破れによるスキルミオン磁気秩序の発現をこの系で示した。非磁性トポロジカル絶縁体と磁性トポロジカル絶縁体を積層させるという本研究計画で提案した手法により大幅な機能開発を実現できることが示され、トポロジカル絶縁体素子開発における指針となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(Bi,Sb)2Te3系薄膜の量子伝導について研究を進めた。研究目的に関連してトポロジカル絶縁体の(Bi0.12Sb0.88)2Te3にCrを添加した磁性トポロジカル絶縁体Cr0.2(Bi0.12Sb0.88)1.8Te3を積層させた新しい人工積層膜を作製した。この構造にトップゲート型の電界効果型トランジスタ構造を作製し、ホール抵抗を測定したところ、積層構造を使わないトランジスタに比べ10倍高い温度(0.5 K)でホール抵抗が量子化抵抗値(約25.8kΩ=h/e2)で一定となり、整数量子ホール状態になっていることを確認した。 トポロジカル絶縁体を適切に積層することで、量子化を単一層で報告した従来の結果よりも高温・弱磁場で観測可能となることを示した。非磁性トポロジカル絶縁体と磁性トポロジカル絶縁体を積層させるという本研究計画の手法で大幅な機能向上を実現できることが示され、積層構造というトポロジカル絶縁体素子開発における指針となる。 また、ホモロガス構造の絶縁体層のGeTe薄膜の合成を行っている。テルルのInP(111)基板からの再蒸発が多く、成長レートが低いという問題があったが(Bi,Sb)2Te3系薄膜の成長よりテルルを多く供給することでGeTe薄膜の成長を確認した。GeTeは(111)方向に分極する強誘電性を持つが、この薄膜も(111)方向の軸長が伸びており期待通りの薄膜成長ができていると分かった。しかし、(111)と等価な(-111)方向に分極したドメインも混在しており、また、5*5mmの大きさでは膜質が明らかに不均一であり研究計画の超格子を作製できるレベルには達していない。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、トポロジカル絶縁体の(Bi0.12Sb0.88)2Te3にCrを添加した磁性トポロジカル絶縁体Cr0.2(Bi0.12Sb0.88)1.8Te3を積層させた新しい人工積層膜で量子化が起こる温度と磁場の改善に成功している。Crと同じようにドープによって強磁性になるバナジウムドープ(Bi,Sb)2Te3を積層構造に含む構造で量子転移温度向上と新機能探索を狙う。また、これまでは、ディラック点にフェルミレベルを正確に調整するために薄膜表面にゲート絶縁膜を積層したトップゲート構造で実験を行っていた。フェルミレベルを調整しながら熱電効果や表面の磁区観察をするには、基板の裏から電圧を印加するボトムゲート構造での実験が不可欠である。ゲート絶縁膜になる酸化物基板上への製膜条件の最適化を行いボトムゲートを用いた研究を進める。 また、ホモロガス構造の絶縁層GeTe薄膜について成長条件がトポロジカル絶縁体と異なる事が分かってきた。特にテルルの供給量が違うので積層の度にテルルの加熱坩堝温度を変化させなくてはならず、製膜に時間がかかってしまうという問題がある。そこで、テルルの供給源の加熱セルを2台製膜装置に装着し、加熱温度を一つはトポロジカル絶縁体、もう一つはGeTe用に設定してシャッターの開閉により積層構造を作ることを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入したRHEED装置本体の価格が予定より安く中途半端に残金が出たため、次年度にまわして少し高額な原材料や装置の購入の計画を立てたため。
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次年度使用額の使用計画 |
カルコゲナイド化合物薄膜成長に必要な金属原料の購入、単結晶基板の購入を消耗品として計画し、またRHEED回折像解析装置を物品として購入する予定である。
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