研究課題/領域番号 |
15K13530
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中村 壮伸 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 助教 (10642324)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | トポロジカルデータ解析 / 統計物理学 / 反応座標 |
研究実績の概要 |
パーシステントホモロジーを用いた、シリカガラス・金属ガラスに共通する中距離秩序構造を記述手法に関する論文が受理された。 本年度はさらに、構造物性相関の探索を推し進めるため金属ガラスを模倣した2成分系のガラス構造の降伏現象に注目した。パーシステントホモロジーでみられるロバストな穴の分布と降伏による力学状態の間に強い相関があることがわかった。本研究により(1)降伏により破壊される局所構造をパーシステンスダイヤグラムにあらわれるロバストな穴として定量化する事、(2)降伏後の穴の構造が液体の固有構造( inherent structure )と類似している事がわかり、過冷却液体がガラス化に際して、ロバストな穴が発達する事で弾性を獲得しているという理解が得られた。(白井氏との共同研究) また、パーシステントホモロジーで得られるパーシステンスダイヤグラムから弾性や輸送特性などといった力学物性を抽出する際に必要になる自由エネルギー地形の計算に関して、従来の分子動力学計算で得られる自由エネルギー計算法に問題があることを明らかにし、一変数の場合に関して改善策を開発した。ここで発見された新たな計算法は我々が注目するパーシステンスダイヤグラムの解析に限らず、たんぱく質や分子性液体・イオン液体などのような分子の形状を記述する連続変数に対して適用することが可能であり、計算科学分野全般で今後の応用が見込める。 これらの仕事2件については現在論文を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自由エネルギー地形が反応座標の選択に依存する任意性が存在することは以前から知られていたが、本研究により反応座標の計量に依存して変わることが非常に重要であるということが明らかになった。また、反応座標の運動を自由エネルギー地形上でのブラウン運動と見なしたとき、計量は変数の値に依存した拡散行列で表されることがわかった。拡散行列を計算するためにはパーシステンスダイヤグラムの時間に関する連続性が必須であることもわかった。これは最適化問題として原理的には実装可能である。拡散行列と定常分布の両方から誘導される自由エネルギー地形は与えられた反応座標のもとで計量の任意性なく反応を記述しうる事がわかった。現在のところ一変数で定式化が完了しているためパーシステントホモロジーのような2次元の反応座標に適用するには依然として課題が残るが、パーシステンスダイヤグラムを一変数に射影して、たとえばベッチ数をと反応座標するような自由エネルギー地形は任意性なく与える事ができる。これにより弾性や粘性といった物性値をパーシステンスダイヤグラムから評価することが原理的には可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
パーシステンスダイヤグラムを2変数の反応座標とみなすためにダイヤグラム上の各点の時系列データから拡散行列を計算し、また、定常分布を計算する事により変数の計量に依存しない自由エネルギー地形を計算する事が原理的には可能になったので、その地形に基づいて、固体に相当する穴(中距離秩序構造に相当する穴)の準安定構造の自由エネルギーの曲率と弾性を、またその穴と液体に相当する穴(対角線に伸びる穴)までのエネルギー障壁と粘性をそれぞれ関係づけ、トポロジカルな構造に基づくデータから物性予測を行う。このためにはまず(1)多変数の場合の自由エネルギー地形を計量に依存しない形で記述する手続きを完成させ(2)拡散行列を計算するために複数のダイヤグラムの最適化問題を高速に多数計算する、という2つの課題が残される。最終年度ではこの2点を解決することに注力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた出張のタイミングで先方支払いの招待講演が入ったため、本研究の成果を周知する良い機会と思い、予定の出張をキャンセルしたから。
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次年度使用額の使用計画 |
旅費と書籍などの物品費として使用する。
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