我々はパーシステントホモロジーで得られるパーシステンスダイヤグラムを用いて非晶質材料の構造記述および統計力学に基づくエネルギー論を構築する為の基礎研究を行った。パーシステンスダイヤグラムはホモロジーで定義されるアルファ複体と呼ばれる穴に対してbirthとdeathと呼ばれる2つの長さスケールを穴ごとに対応させた散布図を与える手法である。 まず我々は非晶質材料のような巨視的一様性がある系に対しては散布図をヒストグラム化させた分布関数を用いる記述が有効であることを見出した。この記述方法によって金属ガラスやシリカガラスとよばれる質的に異なるガラスに現れれる中距離構造を統一的に取り扱うことが可能であることがわかった。 次に我々はパーシステントホモロジーの分布関数においても、従来統計力学が行っているように、分布関数から自由エネルギーを通じてbirthとdeathを反応座標とみた場合のエネルギー論や反応論を展開することが可能であるかどうかを問うた。その結果、パーシステンスダイヤグラムに限らず、一般に勝手に選んだ反応座標が安定性や反応経路、反応率などを正しく与える自由エネルギーとなる保証はなく計量依存性が存在することが明らかになった。反応を適切に記述するエネルギー論を構築するには分布関数だけではなく拡散係数(テンソル)の反応座標値依存性も計算しなければならないということが極めて一般的な状況で必要とされることが明らかになった。 現在、巨視的一様性がある分布に対して、反応座標に関する拡散係数を計算する手法を開発中である。この手法をパーシステントホモロジーと組み合わせることにより、形式的手続きで構成された反応座標に対するエネルギー論を展開し、ガラス転移における輸送係数の増大の起源を定量的手続きに基づいて検証することが可能となるであろう。
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