研究課題/領域番号 |
15K13532
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 善章 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (80182765)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 非正準ハミルトン系 / トポロジー束縛 / Casimir不変量 / Lie-Poisson代数 / 渦 / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
流体・プラズマに現れる構造は,これらの系に係わるトポロジー束縛の効果によるものだと考えられる.基礎方程式をHamilton形式に書くと,トポロジー束縛は位相空間の葉層構造として定式される.すなち,Poisson作用素が自明でない核をもち,その核がトポロジー束縛を表している.トポロジー束縛をもつ系の余随伴軌道が載っているシンプレクティック葉がCasimir葉のどのような部分多様体になっているのかについてファントムの概念を用いて解析した. 1)縮退したPoisson多様体のプロトタイプとして3次元空間を考え,これにBianchiによって分類された Lie代数で Lie-Poisson代数を定義し,その葉層構造を分類した.その結果,Bianchiの分類で Class B と呼ばれるものは,symplectic 多様体上に特異点をもつことが示された.この特異点は,葉層をミラー対称性が壊れた部分多様体に分割し,その結果,カイラルな運動が生み出されることが明らかになった.この理論を高次元系に拡張する研究を行った. 2)無限次元Hamilton力学系(流体やプラズマなど)の非正準構造はClebschパラメタのゲージ対称性による縮退だと考えるのが自然である(K. Tanehashi and Z. Yoshida; Gauge symmetries and Noether charges in Clebsch-parameterized magnetohydrodynamics, J. Phys. A: Math. Theor. 48 (2015), 495501).ゲージ変換のNoether電荷としてヘリシティーがあり,このトポロジー束縛が,対称性を破った平衡構造を作る原因であることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画した研究課題のうちで,カイラルな構造と葉層構造の特異性に注目した研究で大きな進展があった.この成果は,カイラリティーの一般的な起源を幾何学的に特徴付ける研究につながり,これをファントムで解明するという新たな展望が開かれた. 流体やプラズマの構造を特徴付けるトポロジー束縛において,ヘリシティーが重要な役を担うことが知られている.ヘリシティーはClebsch表現のゲージ対称性に係わるNoether電荷であるが,これがミクロな運動論モデルのどのような対称性に関係しているのかを研究した.古典場の理論では未だ十分簡単な説明ができないが,量子場の理論から見るとsu(n)のスピン縮減に係わる対称性であることが明らかになった. また流体やプラズマのトポロジー束縛ゲージ対称性として解明するという視点は,流体やプラズマの複雑化(乱流化)をファントムのactualizationとして見る視点を与えるもので,今後具体的な現象の解析に応用できると期待される.
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今後の研究の推進方策 |
余随伴軌道とCasimir葉の関係は特異点(Poisson作用素 J の退化次数が変化する点)において極めて難しくなる.今後は,特異点の構造とLie代数の関係に注目し,流体やプラズマなどマクロな系で現れるカイラルな構造の解明に応用する可能性を探る.とくに「epi-2D」の概念は場を「粒子化」することができ,一般の3次元流体における渦構造の複雑化は,epi-2D粒子の相互作用によるものとして表現することができる.すなわち,epi-2D粒子が単独で空間をしめているとき,ファントムとして粒子の空間体積を表現していたパラメタは,2つのepi-2D粒子が衝突する(同時に同じ空間を占めるとき)互いの渦場を表現するactualな場となる.最終年度にあたる今年度は,この描像を乱流理論などに応用する可能性をしめして,研究成果を総括する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、共同研究旅費として計画していた経費を、2017年6月にフランスで開催されるIUTAM国際会議に招待講演の依頼を受けた、その旅費としてあてることにした。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年6月、海外出張旅費
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