研究課題/領域番号 |
15K13535
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
杉山 雄規 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (20196778)
|
研究分担者 |
時田 恵一郎 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (00263195)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 非平衡系 / 動的相転移 / 次元縮約 |
研究実績の概要 |
本研究では、非平衡多体集団の協同現象により形成される巨視的な形態やその運動状況を、適切な巨視的変数によって構成されるベクトル空間において表現することを目的としている。多体系の状態はこの空間の一点で表現され、それによって、元の多粒子の持つ自由度を低次元自由度の巨視的空間に大幅に次元縮約する。多体系の時間変化の様子はこの空間内の軌跡として表現される。急激に状態が転移する非平衡多体系の解析をするために有用な手法である。 多体粒子集団の形態を粒子の分布パターンとして捉え、形態の変化をパターンの変形と理解する。その時間変化はパターンの類似度の変化であり、求めるべき巨視的空間はパターンの類似度を測る計量空間である。その数学的方法としていくつか考えられるが、本年度は(拡散写像)Diffusion mapの手法を使って解析をした。この手法はパターン分析の手法として最近、画像認識の手法として使われており、物理へ応用は新しい試みである。 本研究では、非平衡多体系として非対称散逸系である最適速度模型(OVモデル)を具体例に取りこの解析を進めた。OVモデルは非平衡多体系の動的粒子集団であり、高速道路における渋滞発生を動力学的相転移として良く記述する模型である。我々が行った解析により、渋滞転移で重要な、渋滞の無い一様流と渋滞クラスタを持つ渋滞流のいづれもが出現し得る、二重安定状態と呼ばれる状態が存在することを、明瞭に示した。これは、従来の解析では数値計算では示されていたものの、解析的には近似的にしか示されなかったもので、本研究で提案した新しい手法を有用性を支持する結果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
拡散写像の方法自体は、画像解析などデータマイニングで最近良く使われており、テクニカルな運用はある程度調べられている。多体系の物理に応用するというアイデアが功を奏した。実際、OV模型に適用して、予想以上に旨く行き当初の結果を出せたのは、OV模型の示す渋滞流の解の持つ対称性に依ると思われる。 基本的にこの解は、連なって運動する粒子は固有の時間遅れて、同じ運動をするという対称性を持ち、そのことによりリミットサイクル(極限閉軌道)の解を示す。そのことが解析の成功に大きく働いている。このことは、申請者によるOV模型のこれまでの研究成果から、ある程度わかっていることで、原理的に多数の粒子による多自由度が、次元圧縮される可能性を持っていたとが重要である。それが、提案する拡散写像を応用した方法で綺麗に表現できたことによる。またそれによって転移の構造が旨く表現できた。
|
今後の研究の推進方策 |
拡散写像によ2次元OV模型を適用し、群れ集団の形成の解析を行う。2次元OV模型は少数のパラメータで様々な形態の群れ集団運動を示す。その生成過程の解析特にどのパラメータでどの形態パターンが安定であるかを調べる目的で、拡散写像法を適用した方法により、次元縮約した低次元のパターンの類似度を測る空間で、パターン変形の時間推移を追跡する流れ図を作ることより安定な状態に推移していく様子を見る。それにより、この手法の有効性を調べる。 パターンの類似度を測る方法として、カントロビッチ計量空間(もしくはWasserstein空間)による手法の開発を行う。1次元OV模型に適用し、本年度の拡散写像の方法による結果との比較検討を行う。Wasserstein空間によるパターンの類似度を計量化する手法は、最適輸送理論として数学的に最近良く調べられており、状態の変化を示す軌道をポテンシャルの勾配流として示すことができる。それを応用して、形態の変化を力学的軌道として表現し、さらにポテンシャルを変形することで制御する方法を探索する。
|