研究課題/領域番号 |
15K13537
|
研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
脇田 順一 中央大学, 理工学部, 准教授 (30611404)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 集団運動 / 枯草菌 |
研究実績の概要 |
本研究は、寒天平板上に作成した円形プール内で枯草菌が示す集団運動を、菌体長と菌密度を変えることによって相図に分類することと、その振る舞いを統計物理学的な視点から明らかにすることを目的としている。初年度は、“菌体長平均値とプールの直径の比”と“菌密度”をパラメータとして集団運動を6種類に分類し、相図を確立することができた。比に関しては、集団運動を質的に分ける2つの閾値が存在することが確認された。比の値が小さいときは低菌密度領域で「random」、高菌密度領域で「turbulent」に分類されるように個々の菌のランダムな運動が観測されたのに対し、比の値が大きくなると第一の閾値を境に低菌密度領域で「one-way rotational」、高菌密度領域で「two-way rotational」に分類されるようにプール壁に沿った回転運動が観測された。そして、比の値がさらに大きくなると第二の閾値を境に低菌密度領域で「random oscillatory」、高菌密度領域で「ordered oscillatory」に分類されるように振動的な運動が観測された。このように、円形プール内における枯草菌の集団運動は、“プールの大きさ”と“菌密度”の2つの環境条件に依存して多様な振る舞いを示すことが明らかとなった。また、比が中間の領域で観測されたプール壁に沿った回転運動に関しては、運動の方向が常に決まっており、べん毛の回転方向の影響が生物的な因子として示唆されている。次年度は、プール内に1匹の状態を用意し、その後の菌の成長と増殖の過程で引き起こされる集団運動の状態遷移の過程を詳しく調べていく予定であるが、その一方で、系の振る舞いを定量的に表すことのできる物理量を見つけることと、プール壁に沿った回転運動についてガラスパイプ中の粉粒体流れとの比較を意識した実験を新たな課題として提案したいと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の進捗状況に関しては、おおむね計画通りに進展したと考えている。研究結果は日本物理学会にて発表し、JPSJに論文として投稿し、掲載された。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、プール内に1匹の状態を用意し、その後の菌の成長と増殖の過程で引き起こされる集団運動の状態遷移の過程を詳しく調べていく予定である。またその一方で、系の振る舞いを定量的に表すことのできる物理量を見つけることと、プール壁に沿った回転運動に関しては、ガラスパイプ中の粉粒体流れや交通流モデル等との比較を意識した実験を新たな課題として提案したいと考えている。余裕があれば、運動性等において異なる特徴を備えた菌を用いて、同様の実験を行っていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度購入予定の顕微鏡用培養装置は、新機種発売による機能変更と価格変更があったため、一時的に購入を見送った。実験の遂行に関しては、他の研究テーマ用の培養装置を使用することで進めることができた。
|
次年度使用額の使用計画 |
引き続き次年度も他の研究テーマ用の培養装置を使用することが可能な場合は、本研究で使用する顕微鏡に培養装置を取り付けるための専用部品を購入したいと考えている。使用不可能の場合は、初年度購入予定の装置を購入する予定である。また、長焦点距離の対物レンズの購入と、顕微鏡のオートフォーカス化を検討している。円形プール内の水分蒸発を抑えるためにはシャーレの蓋を閉めたまま観察を行うことが必須で、そのためには長焦点距離の対物レンズが必要である。顕微鏡のオートフォーカス化については、長時間観察時に水分蒸発の影響により焦点位置が時々刻々変化するため、実験の成功確率を上げるために必要と考えている。
|