前年度の古典系に対する研究結果を踏まえ、今年度は高速ワークステーションを用いた量子系の数値実験に取り掛かった。量子レモン型ビリアードのエネルギー準位を境界要素法を用いて大量に求め、エネルギー準位をベリーロブニックパラメータで特徴づけることで、量子系の準位反発の挙動を精密に調べた。古典系のリュービルメジャーが自己相似振動を示す前後で、量子系にも対応する振動が得られ、古典系のフラクタルを量子系の側から検出することが可能である事がわかった。量子系を徐々に半古典的なエネルギー領域に接近させると、ベリー・ロブニックパラメータとリュービルメジャーの一致がよくなり、自己相似振動をある程度の振動スケールまで再現できることを発見した。一方、半古典領域から遠い、量子力学的なエネルギー領域では、古典系に対応する振動こそみえるものの、古典系と量子系の定量的な対応関係がうまく得られないことがわかった。これは、古典系にみられる自己相似振動のうち、微細な相空間構造を発生原因とする小さな振動は、量子系の側から捕捉できないことを意味している。この部分を有効プランク定数を用いて議論するとともに、今後は論文の発表準備にとりかかる。
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