研究課題/領域番号 |
15K13540
|
研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
島田 悠彦 (島田悠彦) 沖縄科学技術大学院大学, 数理理論物理学ユニット, 研究員 (20751192)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 3次元共形場理論 / 普遍性クラス / フラクタル次元 / 共形ブートストラップ / 自己回避ランダムウォーク / 非ユニタリ / 臨界指数 / くりこみ群 |
研究実績の概要 |
臨界現象における普遍性クラスは、無限多自由度からなる現実の系に深い洞察を与える重要な概念である。これは局所的スケール不変性を持つ場の理論(共形場理論)に対応し、2次元では量子版複素解析とでも言うべき興味深い構造を持つことや、Ising模型の臨界指数を厳密に決定できることなどが知られているが、現実的にさらに重要となる3次元では長らく進展がなかった。本研究では、近年3次元Ising模型の臨界指数の計算を可能にした共形ブートストラップ法を用いて、3次元共形場理論の普遍的性質を捉え、さらに統計物理で重要となるモデルで臨界指数を計算するなど共形不変性の有効性を実証的に示す。
本年度は、まず3次元N=1超共形場理論において超多重項の存在から従う条件とブートストラップ法から熱的臨界指数を決定した。この理論は2次元Ising模型の励起がその三重臨界点におけるN=1超対称性の破れから生じる南部-Goldstoneフェルミオンと見なせる事との類似から、3次元Ising模型の描像理解に重要である。他方、O(n)対称性に基づいて、超流動、Ising模型、高分子(自己回避ランダムウォーク)の臨界現象に対応する共形場理論が統一的に扱えることに注目し、3次元溶媒中における高分子のフラクタル次元を求めた。高分子の形状を近似的に与えることについては、O(n)対称性のn=0極限(レプリカ極限)を用いたくりこみ群によるde Gennesの仕事があるが、共形不変性に基づいて臨界指数を精密に決定したのは本研究が始めてである。2次元での高分子等の形状については2000年以降、共形不変性に基づく確率幾何がSchramm-Loewner発展として深められた。このようなさらに深い数学的展開への第一歩として、3次元における確率モデルへ共形不変性が有効であることを本研究により実証的に示すことが出来た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、高分子のフラクタル次元等を決める共形場理論はO(n)模型のレプリカ極限(n=0)に対応し、その解析には非ユニタリ性による困難が予期されたため、段階的に取り組むことを計画していた。具体的には、O(n)対称な3次元共形場理論について、nの値に関する「断熱的連続性」がどのレベルで成立するかが懸案であった。2次元における私のこれまでの経験から、非ユニタリ性の壁(解析を困難にする閾値)は、ユニタリかつ解析可能なIsing模型(n=1)と高分子(n=0)の途中にある可能性も予想された。しかし実際に研究を進めると、逆説的にも断熱的連続性の「弱い」破れは、カレントセントラルチャージに新たな特異性をもたせることから共形場理論を同定するのに有効であり、さらに本質的閾値はレプリカ極限直上にあることが分かった。この予期せぬ発見からユニタリ性を補助的に用いる方法を用いて、目標であった高分子の問題に想定よりスムーズにアプローチすることができた。このことは平均場臨界指数となる4次元と3次元の途中(例えばd=3.99)のくりこみ群の固定点が非ユニタリであるにもかかわらず、ユニタリ性に基づく手法で実質解析可能であることと類似であるが、両者における詳細な機構は今後の課題として興味深い。また、実用的見地からは所属機関の中規模クラスタ環境開発に伴い協力者を得て、躊躇せず試行錯誤できたことは大変有益だった。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により、非ユニタリ性を適切に取り扱うことが可能ならば、くりこみ群において重要な視点を与える「空間次元と内部対称性を連続的に変化させること」が、3次元共形場理論の大局的理解のためにも有効であることが示唆された。さらに高分子の問題の解決によりレプリカ極限への理解が深まったので、レプリカ極限における共形不変性から3次元における不純物系の臨界現象に取り組みたい。特に本課題に先行して共同研究者と明らかにした不純物系に特有の2次元臨界点と、本課題が明らかにする3次元CFTの、理論空間における繋がりのトポロジーについて理解を進めたい。また高分子等においてシミュレーションやくりこみ群といった既存の方法では求めることが困難とされてきた、スケーリング補正を定める臨界指数について、共形不変性を用いて得た予備的結果の精度を上げて注意深く検討したい。他方、解析的アプローチについて、2次元CFTの相関関数はCoulomb gas積分やCalogero-Sutherland模型と密接な関係を持つが、本年度中に3次元CFTにもこれらに類似の構造が現れることがわかった。Coulomb gasは強力な計算手法であるにもかかわらず非ユニタリの場合には2次元においてさえこれまで明らかにされていなかった重要な相関関数があり、本年度後半には近年のブートストラップ法の提唱者との議論を契機にこの計算を進めた。これら解析的知見と合わせ、統計物理で重要となる非ユニタリの場合のCFTについて2次元と3次元を繋ぐスペクトラムを明らかにして理解を進めたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
27年度の課題開始時には、短期研究集会等の参加のための旅費に使用することを検討していたが、新たに27年度前半の成果をきっかけに、28年度開催の比較的の長期ワークショップ(GGI, Florence)への参加が決まった。28年度予算のみでは不足のため計画変更して繰越した。
|
次年度使用額の使用計画 |
本研究は理論研究のため,使用目的は旅費が中心となる。28年度は27年度の繰越分と合わせ、27年度前半の成果をきっかけに新たに参加が決まった長期ワークショップ(GGI, Florence)への旅費に用いることとし研究に役立てたい。
|