場の理論は物性と素粒子の双方の基本言語であり、その理論空間の幾何学は、スケール変換への応答を定める繰りこみ群のフローと、その固定点である共形場理論(CFT)がなすウェブにより規定される。3次元CFTは、臨界現象における普遍性クラスを決め、物性実験においても重要となるが、イプシロン展開などの摂動論を超えた扱いには進展がなかった。本研究では、共形不変性やユニタリ性(正値性)のような基本的要請だけから理論を縛って決定するブートストラップ法という試みがIsing模型という氷山の一角を解析可能にした発見を受け、統計力学で重要となる系において臨界指数を計算してCFTの有効性を示し、さらにこれらの基本的要請がなぜそこまで有効なのかを理解することが目的であった。 前年度はO(n)模型のn=0での振舞いを調べて、非ユニタリCFTの代表格である自己回避ランダムウォーク(高分子)について共形不変性からフラクタル次元を初めて決定するなどの成果を得たため、本年度は、それを可能にした要請、特に正値性の役割を明らかにするための基礎固めを行った。 3次元O(n)模型では、4次元高スピン重力理論との双対性を仮定するとnが非自然数の場合に正値性の破れが生じることが議論できる。本研究により、正値性の破れはスケーリング補正を与える高次の場の振幅で弱く起こり、振幅の空間次元dと内部対称性のnを連続変数と考え解析的性質(零や極)を調べるべきであるという重要な示唆を得た。そこで基本場の4点関数における振幅を生成する超幾何積分族をd=2で調べ、零と極を厳密に求めて無限個の振幅の階層性を明らかにした。この階層構造は双曲空間におけるFarey graphに類似しており数学的にも興味深いが、正値性を破る高次の場の寄与が強く抑制されることを定量的に示しており、2次元と3次元のCFTを連続的に繋ぐための重要な土台となると考えられる。
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