研究実績の概要 |
本研究では、電子相関運動を直接的に可視化する新規実験手法を開発し、有機半導体材料の基本単位の一つである単純な芳香族分子のπ電子を対象として、電子相関と物性・反応性との関係を明らかにすることを目的とする。そのために、1電子の運動量密度分布を与える(e, 2e)電子運動量分光を、二重電離過程をも対象とする形に発展させ、物質内2電子の運動量二体分布関数を与える高感度(e, 3e)電子運動量分光として開発・確立する。 平成28年度は、昨年度に開始した(e, 2e)電子運動量分光の高エネルギー分解能化および電子運動量分光による分子軌道の三次元的形状に関する研究を引き続き進める一方で、2電子原子であるHeを対象とした(e, 3e)分光実験を試みた。分子軌道の三次元的形状の情報を実験データから抽出するため、二酸化炭素、エチレン、およびブタジエンの最高被占軌道(π軌道)の電子運動量分布をdensity oscillation解析とフーリエ解析の2通りで解析を行った。その結果、いずれの分子に対しても、電子運動量分布の干渉パターンから反結合性および結合性π軌道の位相が一目瞭然で視覚的に捉えられることが分かった。さらに電子運動量分布のフーリエ解析からは、位相に関してdensity oscillation解析と同様の結果が得られるのみならず、分子軌道の空間分布に関してより直接的な情報が得られる示唆を得た。一方、Heの(e, 3e)分光の極めて予備的実験として、既存の(e, 2e)分光装置のみを用い、電子衝撃二重電離で生成する散乱三電子のエネルギーが全て等しく、かつ、散乱角が45°のものを検出することを試みたが、同時計測信号を得るには至らなかった。これにより、(e, 3e)信号を得るには低速散乱電子の観測など、異なる実験配置が必要となることが分かった。このほか、時間分解(e, 3e)電子運動量分光の実現へ向けた検討を開始した。
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