研究実績の概要 |
本研究の目的は,陽子-電子質量比の時間依存性研究のための有力な候補であるCaH+の回転基底状態を生成し,その振動回転定数を実験的に決定することである.その実現のためにはCaH+の回転温度を冷却し,回転基底状態を生成する必要がある.そこで,本研究ではCaH+の回転温度冷却を目的とした冷却線形ポールトラップを製作し,CaH+の周りの環境温度を約12Kにすることによって回転基底状態の占有率を約55%にまで高めたうえで,中赤外レーザー光源による振動遷移励起(1^1Σ: v = 0, J = 2 → v = 2, J = 1)と,405 nm紫色レーザーによる電子遷移励起1^1Σ(v = 0, J ) → 2^1Σ(v = 1, J)を組み合わせたCaH+のレーザー誘起蛍光(LIF)観測系を提案し,実際に完成させた.ただし電子遷移波長が未知のため,CaH+のLIF観測には未だ至っていない.その打開策として,紫外パルスレーザーと中赤外レーザーを用いたCaH+の二重共鳴光解離スペクトル測定法を提案し,その実現の第一歩として紫外パルスレーザーを用いたCaH+の光解離実験を試みた.Ca+とCaH+からなる混合クーロン結晶を生成した後,紫外パルスレーザーを照射してLIF画像の変化を観測した.その結果,振動回転定数の決定において重要な試金石となるCaH+の光解離反応CaH+ + hν → Ca+ + Hの観測に波長帯283-287 nmで初めて成功した.また光解離レートを測定することによって,光解離断面積の下限値を決定した.一方,単一イオン分光のデモンストレーションとして,単一CaH+を生成しその光解離の観測にも成功した.本研究成果によって,光解離を用いたCaH+の電子遷移波長の決定が可能となるはずであり,LIF観測によるCaH+振動回転定数の測定へ向けて道筋をつけることができた.
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