緑色蛍光タンパク質の1種であるEGFPに電子線照射をした前後の蛍光スペクトルとカソードルミネッセンス(CL)スペクトルの比較から、EGFPに電子線を照射することで、蛍光に関しては「発光強度が変化する」「スペクトルが長波長側にシフトする」ことを発見し、CLに関しては「蛍光に比べて強度やスペクトルの変化が少ない」「スペクトル形状が蛍光と異なる」という実験結果を得た。 発光スペクトルの長波長側へのピークシフトは3つの特徴的な波長付近の強度比が変化することで生じることが分かった。このことから、EGFPには複数の発光状態(分子種)が存在し、電子線を照射することで分子種の変性が行われていると解釈し、この解釈を検証するために、試料周りの環境(試料の下地やpHの値)と励起波長を変えることによって、2つの発光状態(一般にGFPでA種とI種と呼ばれている分子種)があることを確認した。 電子線照射後のCLのスペクトルには、A種やI種と呼ばれる分子種由来の蛍光スペクトルと異なる位置にピークがあり、電子線照射量が多くなると、ピーク位置がシフトし、その後の蛍光スペクトルにCLで見られるピークと同じ位置にピークが現れたことから、電子線照射によって新たな発光種(CL種)が生成され、その発光がCL発光である可能性を見出した。この結果とCLと蛍光にスペクトルの違いがある結果に対して、顕微鏡の機構上それぞれの発光に支配的な分子種が異なっており、蛍光に支配的な分子は徐々に電子線の影響をうけることでCL種に近づいていることを確認した。 また、既存の装置の機能を利用して、集束電子を試料表面上で走査してその際の発光強度を2次元画像として取得する”光学顕微鏡システム”を構築した。課題として、既存の装置では十分な電子流で微小プローブを準備するには限界があること、また光検出効率が低いことが明らかとなった。
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