研究課題/領域番号 |
15K13549
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
谷口 貴志 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60293669)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ブロック共重合体 / 自己無撞着場理論 / 自己組織化 / レオロジー / ソフトマター |
研究実績の概要 |
ブロック共重合体の溶融体はある温度領域においてメソスケールの自己組織構造を示すことが知られている.この構造の予測には自己無撞着場理論が広く使われ,多くの成果を上げてきた.しかし,このメソスケール構造を有する系に外部から流動を印加した場合の応答については,この理論がほとんど役に立たない.そこで本申請研究では,(i)「従来の自己無撞着場理論のように全てのミクロな自由度を濃度場に縮約するのではない新しい理論的枠組みを構築すること」,そして(ii)「この方法論の妥当性の検証のためにAB型およびABA型のブロック共重合体を例として取り上げ,ブロック共重合体の動的粘弾性特性を数値計算により予測すること」を目的として研究を行っている. 本年度は「少数のミクロな遅い自由度」と「各成分の濃度場」が動的変数として取り扱われる「拡張された自己無撞着理論の構築」を行った.遅い自由度としてブロック共重合体の結合点を選び,その結合点と相構造の時間発展が連携しあう理論的な枠組みを構築した.申請書では,まずABA-型トリブロック共重合体の溶融体を例として取り挙げ,具体的な計算を進める予定であったが,まずはABジブロック共重合体のラメラ構造において,自由エネルギーが結合点位置の関数としてどのように変化するか,また主要な寄与は何に由来するかを調べた.この点に着目したのは,この知見が次のStepとして行う結合点のダイナミクスに有益な情報を得ることができるからである.結果として,結合点の位置の違いによる系の自由エネルギーの差は高分子鎖の配位エントロピーが支配的であることがわかった.エンタルピーの寄与はエントロピーの寄与に比べて小さいため,平衡状態での結合点の位置は高分子鎖の配位が最も大きくなるような周期構造をとるように配置されることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
27年度前半の研究は,理論的枠組みの構築であり,これについては,ほぼ予定通り進めることができた.一方,後半に予定していたABA型トリブロック共重合体への適用の研究の前に,まずはAB型ジブロック重合体を調べることで知見を積んでからABA型の研究へ進めていこうと考えた.その結果,AB型ジブロック重合体の結合点の位置の関数として自由エネルギーを求めることができたが,計算の収束性の問題から,この数値計算に予想外に時間がかかったため,計画で予定していたABA型トリブロック共重合体への適用へ進めることができなかった.このため,本研究の進捗状況について,やや遅れていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
計画では,前年度に開発したプログラムを用いて並列で大規模な数値計算を行い,2次元系に剪断断流動を印加した場合について動的粘弾性特性解析を行い,その結果を元に3次元系の動的粘弾性特性の解析を進め,この粘弾性特性の物理的起源を解明するとしていたが,27年度の進捗で少し遅れが生じたため,3次元系への適用を行うより,2次元系でまずは詳細に調べることで,ブロック共重合体の粘弾性特性の物理的起源を解明することを考える.27年度の進捗の遅れは,計算の収束に時間がかかったのが主な原因であるので,その点を改善するために以下の方策を考える. (1) 計算スキームを,より洗練された方法に置き換える.現在,高分子の配位の統計的重率を計算するところで解いている拡散型の方程式の解法として,陰的解法を用いて計算の安定化と高速化を行っているが,それに加えSpectrum法をさらに適用することで計算のさらなる安定化と高速化を行う. (2) 収束計算に関わる部分は,非圧縮性の条件をラグランジェの未定乗数法で解いていたところであり,その部分に多くの計算時間が必要である.そのため非圧縮の条件をポテンシャルを用いた方法で代替し,計算の効率化を図る. 以上方法で,計算の効率化を行い,当初計画の遅れを取り戻し,剪断断流動下でのブロック共重合体の粘弾性特性の物理的起源を解明する. また,同様に高分子ブロックの結合点の配置が重要となる平衡系の問題にもチャレンジする計画である.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では,まずは研究室既存の計算機でプログラム開発を進めた,そのプログラムとデータを保存するためのデータサーバーを購入した。一方,当初計画した最新の計算用コンピュータについては,プログラム開発にある程度見通しが立ったところで,広範囲な計算を進めるために,研究の進捗に合わせて計算用のコンピュータを購入予定であったが,大規模計算を行える段階までプログラム開発が進まず,当該年度での計算機の購入をみおくったため,当初の計画との差が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
計画からの遅れが生じたのは,計算において満たすべき条件を達成するまでの計算時間が長くなる問題による。この進捗の遅れを取り戻すべく,計画でも述べたように,「高効率な計算手法の導入」および「拘束条件の緩和」を取り入れて研究を進める。それにより,広範囲のパラメータ空間での計算へ進めることができるようにする。そのために必要となる計算機を購入する予定である。さらに,その成果をより積極的に学会等で発表するための費用が必要になるので,その経費として支出の予定である。
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