研究課題/領域番号 |
15K13552
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
奥村 泰志 九州大学, 先導物質化学研究所, 准教授 (50448073)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 電気浸透流ポンプ / 電気二重層 / ゼータ電位 / 交流駆動 |
研究実績の概要 |
マイクロポンプの中でも非機械式ポンプである「電気浸透流ポンプ」は、多孔質材料を一対の電極で挟み、水に浸すだけの簡単な構造のため注目を集めている。しかし従来の電気浸透流ポンプでは直流電圧で駆動するため、水の電気分解により水素や酸素が気体として発生し、同時に溶液のpH変化を引き起こす点が問題だった。研究代表者は、多孔高分子膜であるトラックエッチド膜(TE膜)に交流電圧を印加したところ、膜の表裏で対イオン密度が非対称な時には時間平均流量が相殺されて±0とはならず、水の電気分解やpH変化を伴わずに一方向へ送液されることを見出した。本研究では交流電場駆動時に電気浸透流が一方向に整流されるメカニズムの解明を目指している。 最初にポンプを交流電場で駆動した時の電圧-電流のLissajous曲線を測定した結果、水の電気分解を示唆する直流成分は認められず、何らかの電気分解を伴った直流電流が水流の直流成分を生み出しているわけではないことを確認した。次に給水リザーバーの水位を変化させ、受水リザーバーの重量の経時変化を電子天秤で計測するシステムを作製した。リザーバー間の水位差による水流で生じる流動電位から膜内部のゼータ電位の非対称性を算出すると共に、ハーゲンポアズイユの式で流水量から求まる実効流路径の非対称性を測定した。この結果、表から裏に水溶液を流した場合と、裏から表に水溶液を流した場合では生じたゼータ電位が異なり、流量も二倍近く異なったため実効流路半径は非対称になった。この非対称性は水流の上流に当たる膜の表面のゼータ電位および電気二重層の厚さが水流によって流路内に反映されたものと考えられる。この流動電位測定から導かれた非対称性が交流駆動時にも適用できるのであれば、交流駆動時の流路の実効半径の非対称性が整流メカニズムであると結論できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交流駆動時の電流を高精度測定できる電流プローブを導入し、直流電流成分の寄与を否定することが出来た。さらに流量計測機能付き流動電位測定装置を自作して、一対のリザーバー間の水位差によってポンプを流れる流量と発生する流動電位の詳細の測定を行った。その結果、本研究における最重要課題である「整流機構の解明」に関して極めて順調な進展を見せ、交流電圧駆動でも一方向に送液される現象を、実験結果に基づいた電気二重層のモデルで説明することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も当初の計画に従い、マグネトロンスパッタ用のクシ歯電極作製用のマスクを用いて表と裏のクシ歯電極が直交するポンプを作製し、二次元アドレッシングが可能な電気浸透流ポンプを作製する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
装置を自作して既存の装置と組み合わせた結果、物品費が削減されて次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
TE膜に形成された電気二重層を光学顕微鏡で観察するという難易度のより高い技術課題への先行研究のために必要な装置の開発に使用する計画である。
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