研究課題/領域番号 |
15K13555
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
古江 広和 東京理科大学, 基礎工学部, 准教授 (70289304)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 液晶 / DNA / 両親媒性 / 円偏光二色性 / 電気光学効果 / イオン密度 |
研究実績の概要 |
液晶研究における標準試料的な5CBに一本鎖のDNAを添加し、液晶特性に及ぼすDNA添加効果の定量的評価を試みた。評価項目として、偏光顕微鏡を用いたテクスチャー観察および相転移温度測定・相同定、円偏光二色性測定、電気光学効果観測を主に実施した。その結果、相転移温度に変化が見られない添加濃度においてもテクスチャーには変化が現れ微細化することが分かった。円偏光二色性の結果からは、DNA添加が液晶場の配向捩れを誘起しうることが確認された。また、テクスチャーの微細化や配向捩れの度合いは、塩基数よりも濃度に強く依存することが明らかとなった。したがって、DNA添加による高機能性や高次構造の発現に対して、可溶添加質量において少塩基数で高濃度とするのが有効と考えられる。電気光学効果の観測結果からは、液晶分子の応答時間に塩基種依存性が観られた。特にアデニン・グアニンとチミン・シトシンの間で比較的大きな差が見られ、塩基のサイズが関与していると考えられる。他方、5CB以外の液晶試料についても検討を行ったが、液晶相の温度範囲が広い試料では、液晶分子自身の配向構造が安定なため、DNA添加効果が現れにくいことが判明した。 水系液晶として、両親媒性化合物(C16E8およびC12E8)を用いてリオトロピック液晶を作製した。広い温度範囲で安定的に現れるミドル相に着眼し、DNA添加効果を調査した。テクスチャー観察においては、ミドル相特有の扇模様が乱雑化する様子が観られた。DNA分子の振る舞いを調査するためイオン密度測定を行った結果、DNA分子が電場に追随してイオン的に移動することが判明した。なお、5CBのような油系液晶媒質中では、そのような振る舞いは観測されなかった。したがって、生体内同様の水環境下でDNAの添加効果がより顕著に現れることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、5CB液晶へのDNA添加効果の定量的評価を行い、液晶の静的な分子配向構造や動的な応答特性へのDNA塩基数や添加濃度依存性を調査できた。一方、塩基種依存性については、電気光学特性の一部に塩基種による差異が認められたが、結果の解釈に不明な部分もあり、他の液晶試料を用いるなどして、より詳細な解析・検討が必要と考えている。 水系液晶についても、予定通り、両親媒性分子を用いての作製に成功し、DNA添加効果を調査できた。しかし、塩基種による差異が不明瞭であり、より大きな添加効果を発現させるためにも、より低粘性で、ラメラ相のような比較的単純な分子配向構造を有する水系液晶の作製が必要と考えている。 また、生体類似の構造を有するブルー相液晶についても検討を行っており、多角的な調査を実施できていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、液晶へのDNA添加効果を調査する。目標としては、1.塩基種による液晶特性の差異を見出し、液晶を用いて塩基配列解析が可能になる等のバイオセンサーへの応用、および2.DNA添加による液晶分子配向の高次構造形成や新奇特性発現による高機能材料の作製を目指す。昨年度の研究成果として、一部特性に塩基種による差異が観られたが不明瞭な点が多い。また、DNA添加による液晶分子配向の構造変化や物性変化が認められたが、全般的に効果が小さいと言える。したがって、より顕著な差異や変化を得ることを目指し、今後は液晶試料により着目したいと考えている。例えば、従来型の油系液晶においては、多種の液晶について調査することに加えて、ネマティック相以外の液晶相(例えば、スメクティック相や強誘電性液晶相)へのDNA添加効果も調査したい。また、水系液晶に対しては、より低分子量の両親媒性化合物を用いて低粘性の液晶相を発現させ、添加効果の更なる拡大を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
その他の経費において、機器修理費用として10万円を想定していたが、そこまで大きな修理が今年度に関しては無かった。また、旅費に関しては、他の用件に合わせて出張したため、当該科研費からの支出をしなかった。一方、初年度ということもあり、物品(消耗品)の購入が想定以上に多かった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度分の助成金と合わせて、物品費、旅費、その他(機器修理、論文別刷り)に、ほぼ当初計画通りに使用する。
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