研究課題/領域番号 |
15K13557
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
木戸 元之 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (10400235)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 海中音速場 / 海底地殻変動観測 / GPS音響結合方式 / 内部重力波 / XBT |
研究実績の概要 |
計画の初年度である平成27年度は、海中音速度場を直接計測するXBT/XCTDと呼ばれるセンサーを海中に落としデータを得るためのランチャーとコンバータを購入した。この計測システムを使用すると、海面から海底まで(2000m以内)の音速プロファイルを約5分で計測可能であり、12回の連続観測により、1時間にわたる時間変化を5分の時間分解能で把握できる。 11月に実施したGPS音響結合方式の海底地殻変動観測の際に、日本海溝の観測点で連続観測を実測し、特徴的な温度変化のパターンを把握するための基礎データを得た。その様子は海水自体の音速が変化するのではなく、内部重力波によると思われる周期的な、特に上下に海水が運動していることによる変化が卓越することがわかった。その海面から海底までの平均音速をとると、あたかも海水自体が速度変化するように見えるが、実際にはプロファイル形状が内部重力波により歪むことが要因であると言える。その時間変化は、地殻変動観測時に推定されるパターンと調和的な傾向が見られた。 本研究の最終目標は、実測するのが困難な海中音速の「空間」変化を海底地殻変動観測のみで推定し補正することで、地殻変動の計測精度を飛躍的に向上させることである。今回平均音速に関して実測値と推定値が調和したことから、現在の海底地殻変動観測の計測精度で、音速場の空間変化の推定が原理的には可能であることの確証を得たといえる。一方で、さらに細かい時間変化に着目すると食い違いも見られ、これが温度センサーの精度の限界であるのか海底地殻変動観測の精度の影響なのかを判別するには至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた連続観測を予定通り実施しデータを得られた点で、進捗としては妥当な状況であると判断している。このようなデータは一般的な海洋物理学の視点からはあまり興味が持たれず、ほとんど取得されていなかったものであり、貴重なデータであるといえる。また、取得したデータの妥当性を検証するため海底地殻変動観測による海中音速の実測値との比較まで行えた点も評価できる。 ただし、海底地殻変動で推定できるのはあくまでも海面から海底までの積分値であり、プロファイル形状を直接比較できるわけではないので、情況証拠としての情報量に留まる。しかし、最終目標は「海洋物理学」の研究ではなく、あくまでも海底地殻変動観測を高精度化させるためであるため、積分値の比較でも本来の目的は達成することができる。 予算の関係で、一箇所での連続観測データにとどまった点は、複数のデータセットでの説得力のある結果とまでは言えず、目標達成という意味での進捗としては「概ね」とするのが妥当である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果の問題点として、主に2点挙げられる。一つはセンサーの計測精度に限界があり、推定値との比較では細かい変動までは一致しなかった。もう一つは、連続観測データが1観測点しか無いことである。より精度の高いセンサーを用いると価格が高いため、観測点数を増やすことが困難である。これを解決するため、消耗型ではなく、かつ極めて高精度なCTDと呼ばれる計測装置でプロファイルをなるべく多くの点で取得することが1つの解決方法であり、次年度はその計画を組み込んでいる。ただし、1回の計測に時間がかかるため時間分解能は低く、XBT/XCTDの消耗型センサーとの併用は不可欠である。ここで単なる併用ではなく、高精度CTDをリファレンスとして、XBT/XCTDの計測プロファイルのバイアスを適切に取り除き、結果的に高頻度観測が可能なXBT/XCTDでの計測の見かけの精度を確保する方法を適用する予定である。 また、計測結果を利用し、本来の目的である音速場の空間不均質の積分値を海底地殻変動観測の測距の走時残差データの変動を推定する方法を実観測データに適用し、得られた値をフィードバックすることで走時残差残差の減少、ひいては地殻変動計測精度の改善度合いを定量評価する。 このような事例を複数の観測点で効果的に実施するため、通常の海底地殻変動観測時に、リアルタイムで海中音速の変化を推定しながら、特徴的なパターンが現れたタイミングを狙って連続観測を行えるよう、観測中の逐次データ処理アルゴリズムを開発する。 これら手段で目標とする精度が得られれば、その手法と科学的意義を学会等で公表する。
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