年度当初に、日本海溝の20余りのGPS-A観測点のほとんどすべてでCTD観測をする機会を得て、GPS-Aで推定した走時残差の精度を多くの点について定量的に評価することができた。その結果、音響信号の波形読み取りを正確にすることにより海底の上下変位に換算して10-15cm程度の精度が達成可能であることがわかり、今後GPS-A観測とCTD観測を併用することで、従来の定点観測の形態のまま水平変動のみならず10cmレベルでの上下変動の計測への道を開いた。 年度後半には紀伊半島沖の海域にあるGPS-A観測点において、初年度に購入したXBT計測装置を用いたXBTの連続集中観測を実施する機会を得た。水深約2000mまでの温度プロファイルを2時間で12本連続的に取得した。得られたプロファイルを時系列で解析したところ、水深100-500mの比較的浅い領域で水塊が20mほどの振幅で上下運動する様子が明瞭に捉えられ、短時間の海中音速場の擾乱の要因が内部重力波であることを実測により証明でき、その前提に基づいて音速補正することの妥当性を担保できた。また、通常精度が低いとされるXBTのプロファイルをより精度の高いXCTDの深部のデータとの併用により補正する方法を考案し、XBT計測値を実用に耐えるデータに補正・変換することに成功した。 実際に振動する温度プロファイルから計算した平均音速の時間推移と、GPS-A観測で推定したそれとが十分高い精度で一致したことから、短時間の擾乱の原因が内部重力波であると特定され、前年度達成できなかった短周期の海中音速変動の擾乱の補正を的確にできるようになった。
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