研究課題
地球には大きな月が1つだけ存在し、金星と水星には衛星が存在しない。これらは偶然なのか、それとも何か必然性があるのか? この問いの答えを科学的に明らかにするため、個別的に扱われていた地球型惑星形成プロセス、衛星形成プロセス、惑星―衛星系の潮汐進化を統一的に扱った計算コードを作成し、大規模数値計算を多数ラン実行することによって、地球型惑星が形成したときに月のような巨大な衛星が形成される確率を定量的に明らかにすることを本研究の目的としている。平成27年度は、月形成に関わる以下の4つのプロセスを組み込んだ統一計算コードの作成を行った。(1) 原始惑星の軌道進化、(2) 原始惑星同士の衝突、(3) 円盤からの衛星形成、(4) 惑星-衛星系の潮汐進化。また、個々のプロセスについて以下の改良を行った。(1) 原始惑星の軌道進化:これまでに申請者が開発してきたN 体コードを高速化した。高速化は、来年度行う多数ランの計算において極めて重要である。(2) 原始惑星同士の衝突:これまでに申請者が開発してきたSPH衝突計算コードを改良し、以前は岩石や鉄といった物質を模擬した半経験的な状態方程式しか扱えなかったコードを、熱力学に則した最新の状態方程式であるM-ANEOSを扱えるように改良した。(3) 円盤からの衛星形成:円盤質量が重い場合の半解析式[Ida et al. 1997]、円盤が中程度に軽い場合の半解析式[Hyodo et al. 2015]、円盤が軽いときの解析式[Charnoz et al. 2010]を連続的につないだフィッティング式を作った。(4) 惑星-衛星系の潮汐進化:地球-月系だけでなく系外惑星の衛星潮汐進化までを広く扱った潮汐進化コード[Atobe & Ida 2007]を使用した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、月形成に関わる4つのプロセスの改良とそれらを統一的に組み込んだ計算コードの作成を行った。これらは、当初予定していた計画に沿うものであり、順調に進展していると言える。
本年度に作成した統一計算コードを用いて、本格的な大規模計算を行う。計算の初期条件としては、100 ラン程度を想定しており、東工大のスパコン(TSUBAME)を用いて計算する。これら複数ランの結果から、最終的には、月のような衛星の必然性・偶然性を明らかにする。
当初、出版費がかかる学術雑誌への投稿を予定していたが、出版費がかからない学術雑誌に切り替えたため繰越金が生じた。
繰越金に関しては、来年度に購入予定の計算機のスペックを上げることに充てる予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 4件、 招待講演 5件)
Icarus
巻: 271 ページ: 131-157
doi:10.1016/j.icarus.2016.01.036
Geochemical Journal
巻: 50 ページ: 27-42
doi:10.2343/geochemj.2.0398
The Astrophysical Journal
巻: 812 ページ: 165 (11pp)
doi:10.1088/0004-637X/812/2/165
巻: 262 ページ: 58-66
doi:10.1016/j.icarus.2015.08.029
巻: 810 ページ: 136 (8pp)
doi:10.1088/0004-637X/810/2/136
遊星人
巻: 24 ページ: 191-200