台風による遠隔海域からの水蒸気の集積効果が台風自体を強化するという正のフィードバック仮説を検証するために、(1)領域同位体循環モデルによる台風中心付近の水蒸気起源の数値シミュレーション、(2)非静力学雲解像モデルの数値シミュレーションに基づいたラグランジュ的な診断解析を実施した。 具体的には、(1)については、水蒸気コンベアベルト(MCB)を付随している典型的な台風を事例として、高分解能数値シミュレーションによる台風の内部構造を詳細に再現し、台風中心近傍の水蒸気起源解析を行った。その結果、台風直下の海域起源の水蒸気量の推定が大幅に改善すると同時に、依然として遠隔海域起源の水蒸気の寄与も大きいことが見出された。また台風の最盛期後半には凝結量でみても全体の約60%を占めており、潜熱加熱を通して台風の発達・維持に実質的な寄与をしている証拠を初めて示した。 (2)については、水平解像度約5kmの高解像度雲解像モデルでMCBならびに台風の再現性を評価してから、インド洋・南シナ海の海面水温(SST)の改変実験を行うことでMCBの強化と弱化を人為的にコントロールして、台風の構造や発達へのインパクトを前方・後方流跡線解析等で調査した。その結果、MCBの強弱に対応して台風内部コアへの空気塊の流入量も変化し、結果的に潜熱加熱にも影響を与えている事がわかった。また、台風の除去実験から、MCBが形成されないことも確認した。上記フィードバック過程が他の台風にも適用可能であることも明らかになった。
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