研究課題/領域番号 |
15K13579
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
大和田 正明 山口大学, 創成科学研究科, 教授 (50213905)
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研究分担者 |
亀井 淳志 島根大学, 総合理工学研究科, 教授 (60379691)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 花崗岩体 / 斜面崩壊 / 化学的風化指標 |
研究実績の概要 |
花崗岩体内部に発生した土石流の発生原因を探るため,土石流発生箇所の地質学的・岩石学的特性を検討した上で,特に化学的風化過程の解析を目指している.平成28年度は昨年度に引き続き,花崗岩体の現地調査と試料採集及び新鮮岩,風化岩及び土石流堆積物を分析した.調査した岩体は2009年7月の豪雨によって土砂災害を起こした山口県防府市から山口市にかけて分布する防府岩体である.試料は岩体の主に南部の約40か所,150試料を採取した.それらのうち,新鮮岩と風化岩は薄片を作成し,顕微鏡で観察した.また,新鮮岩から風化岩そして土石流堆積物のうち,約100試料の化学組成を測定した.そして得られたデータから花崗岩体の化学的風化の進行過程を解析した.特筆すべき結果は以下の通り. 1.新鮮な花崗岩と風化した花崗岩を顕微鏡下で観察すると,風化した花崗岩は構成鉱物の粒間や内部に変色した割れ目が発達する.先行研究で提案されている化学的風化指標を適応すると,風化の進行に伴ってアルミニウムの増加や鉄・マグネシウムの減少が認められる. 2.斜長石は変質し,セリサイト化が著しい.それに対してカリ長石はパーサイトなどの内部構造は残したまま,全体に濁った色に変色する.同じ風化岩でも場所によってカリウムの交代作用が起こる時期が異なる.現時点では3パターンに区分できる.一方,カリ長石がカオリンに変化するのは風化の末期である. 以上の事実から化学的風化はカリウム交代作用の影響をどのように評価するかが重要であると考えられる.今後はそうした交代作用に着目し,風化過程における化学的変化の詳細を検討する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,土石流を発せさせた流域を調査し,風化した花崗岩試料を採取した.そして,風化した花崗岩と新鮮な花崗岩の化学組成を比較し,花崗岩の化学的風化過程における移動元素の把握を試みた.その中で,カリウム(K)に着目し,風化の程度とカリウム含有量を調べたところ,風化の過程でカリウム交代作用が起こることが確認できた.また,そのカリウムが交代作用を受けるタイミングが場所によって異なり,現時点では3パターンに区分されることが明らかになった.
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今後の研究の推進方策 |
花崗岩の化学的風化にカリウム交代作用が大きな役割を果たすことが認められた.また,同じ岩体内でも交代作用の時期が場所によって異なることも明らかとなった.今後は交代作用を起こす時期が何によって規制されるのかを検討する必要がある.カリウムの交代作用を促す原因として,熱水と岩石(鉱物)の反応があげられる.そのため第一に流体相の存在様式を野外調査によって明らかにすることが重要である.さらに,試料の採集密度も細くして,流体の通過経路や流体と岩石の反応過程の詳細を検討する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
宿泊を伴う調査を全て日帰り調査に振り替えたこと,消耗品の在庫がなく,予定通り入手できなかったことによって,当初予算の一部が次年度へ繰り越しとなった.
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次年度使用額の使用計画 |
日帰り調査に加え,防府岩体以外の岩体(例えば,広島花崗岩,北部九州の花崗岩)へ宿泊を伴う調査に出かける予定.そのため,今年度よりも調査旅費の支出が増える.また,分析試料をさらに増やすため,分析補助費や依頼分析費(費目:その他)の支出が増える.また,平成29年度が最終年度となるため,学会発表や論文投稿など,成果の公表に対する支出を予定している.
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