研究課題/領域番号 |
15K13582
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
廣瀬 丈洋 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 高知コア研究所, グループリーダー代理 (40470124)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 断層 / 鏡肌 / アスペリティ |
研究実績の概要 |
断層面には、固着している部分(アスペリティ)とそうでない部分が存在する。アスペリティでは、地震間に歪が蓄積され、地震時に大きくすべることから、地震発生過程を解明する上でアスペリティの理解は重要である。しかし、物質学的観点からアスペリティの実体は明らかになっていない。1つの仮説として、断層面に観察される鏡肌がアスペリティを担っている可能性がある。本研究では、2011年4月のいわき地震直後に採取された鏡肌を含む断層面の幾何・物質学的特徴を調べ、その特徴を摩擦実験によって再現し、鏡肌が断層の力学的性質に与える影響を調べることによって、この仮説を検証することを試みる。アスペリティの実体解明は、地震学と地質学を有機的に結びつけ、より現実的な地震発生メカニズムの解明につながることが期待される。 平成27年度は、2011年東北地方太平洋沖地震直後に内陸側での正断層運動によって地表に現れた井戸沢断層の断層表面の形状特性を調べた。特に、これまで統計的に扱われていないnmから mmの微小スケールでの断層表面形状の特性を調べるために、デジタル実体顕微鏡(mm~10cmのスケール)、共焦点顕微鏡(um~mm)、走査型プローブ顕微鏡(SPM)(nm~um)の3種類の顕微鏡を用いて数mm以下のスケールの形状特性を測定できる手法を開発した。この手法を用いて、井戸沢断層の鏡肌を含む表面形状特性のスペクトル解析をおこなった結果、断層面のフラクタル特性はおおよそ1というハースト指数をもつため、非常に自己相似フラクタルに近い自己アフィンフラクタルであることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
断層面の形状特性解析で、これまで統計的に扱われていないnmからmmの微小スケールでのスペクトル解析をおこなえる手法を開発することができた。本研究の核となるこの手法を開発できた意義は非常に大きい。またこの手法を用いて、自然界の鏡肌を含む地震断層表面の形状特性を明らかにすることができ、当初の計画通りに研究を遂行することができた。 一方、本研究で用いた断層面試料は、地震発生3週間後に採取された試料で、断層運動後の風化・変質の影響を受けていないと考えていた。しかし、国際深海科学掘削計画の掘削コア保管管理に習って冷蔵庫で保管をしてきたにも関わらず、時間とともに数マイクロメータほどの微生物と思われる物質が断層表面に形成されていることがわかった。今後、この物質が断層面形状特性スペクトル解析にどのような影響をおよぼしたかを評価するとともに、自然界の微小地質試料の保管技術の改良をおこなう必要があることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、当初の計画通り井戸沢断層の試料の物質解析を、粉末X線回折分析、走査型電子顕微鏡を用いておこなう。また、開発した微小スケールのスペクトル解析手法を他の地震断層にも適応し、断層面の形状特性データを蓄積する。さらに、これまで公表されている、数mmより大きいスケールでの断層形状特性と比較して、自然界の地震断層面の一般的な形状特性を明らかにすることを目指す。 一方、最終年に予定した回転式摩擦試験機を用いた断層面再現実験の準備も、平成28年度に前倒しではじめたい。特に、鏡肌の形成条件はよくわかっていないので、模擬岩石(花崗岩など)を用いて、すべり速度、垂直応力、変位、水の有無などの条件を変化させ、鏡肌が形成される条件を明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究協力者の、研究遂行場所である高知コア研究所への出張と学会参加出張が各1回キャンセルとなったため、旅費に多くの経費が残ることとなった(約22万)。研究は順調に進んでおり、本出張のキャンセルは本研究の遂行にまったく問題はない。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28~29年度に計画している断層鏡面の再現実験は、予想以上に実験数を必要とする可能性があることから、平成27年度の未執行経費は、この実験の消耗品の購入にあてたい。
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