研究対象を結晶質鉱物から非晶質鉱物に拡張し、詳細な構造評価に基づき岩石が受けた地質学的イベントを読み取ることを目的とする本研究は、衝撃圧縮を受けた火星隕石に含まれる長石およびかんらん石に着目した。長石に関しては、溶融法で作成したガラス構造隕石から取り出したマスケリナイトの構造解析をすすめ、通常溶融ガラスとマスケリナイトとの構造の違いに関する議論を進めた。また、マスケリナイト類似組成のBytowniteの衝撃圧縮実験を行ない、隕石中に観察できるマスケリナイトの再現を試み、XFAS法によってCa周囲の局所構造解析およ粉末回折実験を実施した結果、衝撃圧縮を施した長石試料の回折ピークは初期状態のものと比較し散漫になり、歪が蓄積されていることを明らかとしている。しかし得られた試料には結晶構造が明瞭に残存し、隕石に存在するマスケリナイトと同様のレベルのひずみ蓄積試料を再現することはできなかった。この実験結果は、今回の実験の到達衝撃圧縮圧力が20GPa以下でありこれまでに見積もられているマスケリナイトの生成に必要な圧力(20から35GPa)に達していないことと調和的である。火星隕石シャーゴッタイトに含まれる黒色カンラン石に関しても研究を進めた。シャーゴッタイトに含まれるカンラン石の回折パターンも散漫な特徴を示し、衝撃によってもたらされた歪が蓄積していた。黒色かんらん石は透明部位と比較し衝撃圧縮で記録された歪の緩和が観測され、さらに黒色領域は透明領域に比べ有意に高いFe3+を含んでいることを考慮すると鉄ナノ粒子は衝撃と高温の熱履歴による不均化反応により形成されると示唆できる。
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