研究課題/領域番号 |
15K13594
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
境 毅 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 助教 (90451616)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 2段式ダイヤモンドアンビルセル / 集束イオンビーム加工装置 / マルチメガバール / 超高圧発生 / 状態方程式 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、既存の静的高圧発生技術では未踏の500万気圧(=500 GPa)を超える圧力を発生する技術を開発・確立することである。このため、従来のダイヤモンドアンビルセル(以下DAC)に、ミクロンサイズの2段目アンビル(マイクロアンビル)を配置した2段式加圧方式による圧力発生技術の開発を行った。 マイクロアンビルは、集束イオンビーム加工装置により作成した。試料は先端径3 μmの2つのマイクロアンビルによって挟まれ加圧される。このマイクロアンビルをDAC内に封入することによって、1段目のDACで発生した封圧環境下においてマイクロアンビル自体の強度を向上させることができる。発生圧力については、大型放射光施設SPring-8 BL10XUにおいて粉末X線回折実験を行い、試料の格子体積から評価した。 これまでの予備的な実験により、封圧60 GPa程度においてマイクロアンビル先端で300 GPaを超える圧力が達成されている。平成27年度においてはさらに高い約80-140 GPaの封圧下で4回の実験を試みた。しかし結果として発生圧力は250 GPa程度にとどまった。この原因としては、高封圧実験用に設計したマイクロアンビルの初期形状が、逆に強度低下を招いてしまった結果と考えられる。より具体的にはアスペクト比が重要である可能性があり、現在検証を進めている。 一方、上記の技術開発と並行して数100 GPaの超高圧環境下で特に有用な状態方程式モデルに関する考察を行った。その結果として、圧縮極限(無限の圧力)での熱力学的限界を考慮したKeane状態方程式を地球マントル最下部の鉱物に対して初めて適用したモデルを提唱した(Sakai et al., 2016 Scientific Reports)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの予備的な実験により、封圧60 GPa程度において300 GPaを超える圧力が達成されている。平成27年度においてはさらに高い封圧下での実験を試みた。4回の実験を封圧約80-140 GPaにおいて実施したが、結果として発生圧力は250 GPa程度にとどまった。高い封圧条件で実験を行うためには1段目アンビルの先端径を小さくする必要があり、従って試料容積が減少するため、マイクロアンビルも小さい形状に変更せざるをえない。今回高封圧下での実験に使用したマイクロアンビルは比較的扁平な形状をしており、形状の縮小とアスペクト比の変化による強度低下が、封圧による強度向上を上回ってしまったと考えられる。このため、マイクロアンビルの形状(アスペクト比)を一定程度に保ったうえで、アンビル先端形状等を最適化する必要があることが分かった。 また試料については、平成28年度の計画にあった複数試料での同時測定についても実験を行った。この結果、金とレニウムのように硬さが大きく異なる金属を単純に重ね合わせた場合、高い封圧下にもかかわらず、比較的やわらかい金の方がマイクロアンビル先端から選択的に押し出されてしまうことが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては、形状・素材・試料・測定といった観点で進める。 形状については、上述したようにアンビルの全体形状が重要であることを踏まえつつ、アンビル先端のべベル角度やサイズをパラメータとした実験を複数行い、これらの条件の最適化を目指す。 素材については、これまで単結晶を基本として開発を進めてきた。これは実験において最適化すべき様々なパラメータがある中で素材の再現性をとるためである。一方で、高焼結のナノ多結晶ダイヤモンド素材の合成も検討しており、単結晶素材との比較を行いたい。 試料については、金とレニウムといった複数試料の同時測定の場合、比較的やわらかい金がマイクロアンビル先端から選択的に押し出されてしまうことを踏まえて、金をレニウムの中心にのみ埋め込む技術を開発しており、今後複数試料測定に最適な形状・サイズ比等を検討・評価する。 測定については、SPring-8 BL10XUで開発されたX線マイクロビームを使用している。マイクロビームのサイズは約2 μm程度だが、集光された2 μmの周囲にもわずかな強度ながらX線が存在しており、これに起因する回折現象がみられる場合があることが分かっている(Sakai et al., 2015 RSI)。マイクロアンビル先端の情報のみを正確に測定するために、X線ビームの“裾”を切るためのコリメーターの開発を進めている。
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備考 |
Sakai et al. 2016の成果について2016年3月7日プレスリリース。
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