研究課題/領域番号 |
15K13599
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
濱 健夫 筑波大学, 生命環境系, 教授 (30156385)
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研究分担者 |
和田 茂樹 筑波大学, 生命環境系, 助教 (60512720)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 蛍光性溶存態有機物 / 光化学的消光 / 海洋バクテリア |
研究実績の概要 |
海洋表層における蛍光性溶存態有機物の生成過程と光化学反応による消光過程を明らかにするため、沿岸微生物群集を用いた培養実験を合計4回実施した。本実験は、暗所におけるバクテリアによる蛍光性溶存態有機物の生成と、明所における光化学反応による消光を前提として培養系を設定した。この目的のため、明瓶と暗瓶を用いて昼夜にわたる24時間の実験を行った。また、蛍光性溶存態有機物の生成量は微生物群集の現存量に依存すると仮定し、微生物群集が異なると予想される静岡県下田市(第1、2実験)、神奈川県三浦市(第3実験)および東京都中央区(第4実験)から試料を採取した。 これにより、下記のことが明らかとなった。 (1)4回の実験で得られた溶存態有機物の蛍光情報を、PARAFAC(多変量解析)により解析したところ、各試料ともに、海洋腐植様蛍光ピークC、同ピークM、およびチロシン様(第1、2実験)あるいはトリプトファン様(第3、4実験)の3種類の構成分が認められた。 (2)植物プランクトン現存量の指標となるクロロフィルa濃度は、第1、2の実験において、0.31及び0.34µg/Lと低く、第3、4の実験においてそれぞれ2.5、2.1µg/Lと比較的高かった。また、バクテリア細胞数はクロロフィルa濃度と同様に、第1、3の実験では低く、第3、4の実験では下田の10倍程度と高かった。 (3)昼夜を通した実験において、実験3においては、海洋腐植様蛍光ピークCおよびMが、暗所における増加を示した。一方、実験1、2および4においては増加は認められなかった。実験1、2では蛍光性溶存態有機物の生産者であるバクテリアの現存量が低いためと考えらる。 (4)日中の明所では、何れも蛍光強度の低下が認められ、蛍光性溶存態有機物が光化学的消光を受けていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光化学的反応が生ずる海洋表層においても、バクテリアにより蛍光性溶存態有機物の生成が生じていることの証明が、本研究の主目的の一つであった。4回の実験中、生成が認められたのは1回の実験のみであったが、生成量が微生物群集の現存量に依存することを考えると、説明可能な結果であると考えられる。また、日中には予想通り蛍光の消光が生ずることが全ての実験において確認された。 この様に、海洋表層における蛍光性溶存態有機物の基本的動態を明らかにすることができたため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
蛍光の昼夜の変化について、更に微生物現存量の異なった海域を対象に実験を実施する。このため、沿岸に加えて、微生物現存量の少ない外洋における実験を実施するため、研究船による航海を利用する。また、現存量の高い状況で実験を実施するため、採取した試水に栄養塩を添加し、人為的に現存量を増加させた状態で、昼夜を通した実験を行う。 また、船舶による研究航海の際に、日出および日没時に繰り返し海水を採取する。得られた試水について、蛍光特性および溶存有機炭素濃度を測定する。この情報から、日出時の海洋腐植様蛍光強度が日没時の強度より高い結果が得られるならば、海洋表層では、夜間における蛍光性溶存態有機物の生産と、昼間における光化学的消光が生じていることを示すことが可能となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は試料採取および現場での実験実施のための滞在費を主な用途として旅費を500,000円を計上した。しかしながら、筑波大学内での実験を可能とする状況を整備できたことから、旅費に未使用分が生じた。また、物品費については、光化学反応を引き起こす紫外線センサーを購入したが、予定していたより安価な機種が販売となったため、予定額より少額の出費であった。
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次年度使用額の使用計画 |
当初計画の次年度の使用計画は以下の通りである。物品費:200千円、旅費100千円、人件費・謝金300千円、その他100千円。 次年度使用額となった約500千円については、物品費、旅費、人件費・謝金に、それぞれ150千円、200千円、150千円を配分して使用する予定である。
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