研究課題
今年度は229Thを用いた同位体希釈TIMS法による極微小量Th定量分析の技術開発を行った。TIMSにおけるThのイオン化効率は非常に悪く、1 pgのThから得られるビーム強度は平均100 cpsにも満たなかった。これは同量のUを用いた場合の1/20以下の強度である。また、ビーム強度が10 cpsを切ると229Th/232Th比の測定誤差が急激に大きくなることが分かった。そこで、10 cps以下のデータを含めずに1 pgのTh標準物質の定量分析を行った結果、濃度の繰り返し再現性は1.3%であった。前年度のU濃度の測定精度と併せると、1 pgのU及びThを用いて求めるU/Th比に伴う誤差は1.5%程度であると考えられる。したがって、プレソーラー粒子に核宇宙年代学を適用した場合、求めた年代には7億年程度の誤差が付随することになる。一方、理論的研究では分担者が主著者(代表が共著)である論文を著名な国際誌であるAstrophysical Journal Lettersに発表した。本研究の分析対象であるUおよびThは速い中性子捕獲反応(r-process)で合成されると考えられているが、このようなr-核種の起源については不明な点が多く、長い間議論となっていた。今回発表した論文では、太陽系近傍のr-核種の起源と進化に関し、銀河化学進化モデルと天文観測に加え、隕石組成の解読という新しい視点を取り入れた。その結果、隕石から期待される太陽系形成期における244Pu量、および現在の深海の堆積層から評価された現在における244Pu量を同時に説明するためには、r-核種が超新星起源ではなく、極めて稀な天体現象である中性子星の合体が起源でなくてはならないことを明らかにした。また、太陽系に供給されたr-核種が最後に合成されたのは、太陽系形成の1.3-1.4億年前であることを突き止めた。このようなr-核種の年代測定は隕石学と天文学の融合により実現したものであり、極めて独創的かつ先駆的な研究であるといえる。
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Astrophys. J. Lett.
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10.3847/2041-8213/835/1/L3
Journal of Analytical Atomic Spectrometry
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