研究課題/領域番号 |
15K13607
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
蓮尾 昌裕 京都大学, 工学研究科, 教授 (40218433)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | プラズマ分光診断 / 全反射分光 / プラズマ壁相互作用 |
研究実績の概要 |
プラズマ粒子の表面近傍での挙動のその場観測は、表面で生じるプラズマ素過程やプラズマ粒子リサイクリングにおける境界条件の理解に重要である。本研究では、プラズマ対向壁を全反射プリズムとし、プリズム表面から光の波長程度のいわゆる近接場光の存在する領域で生じる蛍光のみを全反射配置で分光計測することで、表面近傍のみに存在するプラズマ粒子だけを選択して観測するプラズマ近接場分光法を開発する。 本年度は、冷陰極管インバータ電源を用いた誘電体バリアによる大気圧プラズマ放電装置を自作し、ヘリウムガスを動作ガスとして、大気圧低温プラズマジェットを溶融石英製の全反射直角プリズムに照射した。全反射配置で得られる発光スペクトルとプリズムのない状況で得られるバルクのプラズマジェットの発光スペクトルを250~800 nmの範囲で計測した。バルクプラズマジェットからは、ヘリウム原子、窒素分子、水素原子、酸素原子、OHの輝線が観測された。一方全反射配置では、窒素分子の輝線が信号ノイズ比を十分超える強度で観測された。 観測された輝線強度のバルクプラズマジェットと全反射配置での比を、近接場光の侵入深さを用いて評価した観測領域体積と比較したところ、窒素分子の励起がプリズム表面で大きく増加していることが示唆された。 平行して、レーザー誘起近接場蛍光の観測に向け、半導体レーザーを用いた計測システムの開発を進めた。その結果、アルゴンとヘリウムの準安定原子のドップラーフリー計測が可能となり、その有効性の実証実験として大気圧のマイクロホローカソード放電プラズマの空間分解計測を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
原子の原子衝突や電子衝突の平均自由行程が近接場領域より十分長いという条件にて、原子の速度分布と励起寿命を考慮したプラズマ近接場蛍光のモデルを構築し、計算を行った。 実験においては、大気圧低温プラズマジェットの全反射配置の発光スペクトル計測に成功し、表面近傍の近接場領域で窒素分子の励起が効率的に起こっているという現象の手がかりを得た。また、レーザー誘起近接場蛍光の観測に向け、半導体レーザーを用いた計測システムの構築ができた。
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今後の研究の推進方策 |
大気圧低温プラズマジェットの全反射配置の発光スペクトル計測で見られた現象について、より詳細な計測を行い、そのメカニズムを探る。また、全反射プリズムへの金属薄膜の成膜等によってプラズマ対向壁の表面状態を変えて系統的な計測を行い、プラズマと表面の相互作用の知見を深める。 半導体レーザーを用いたアルゴンとヘリウムの準安定原子のドップラーフリー計測を大気圧低温プラズマジェット計測に展開し、プラズマ維持に重要な役割を演じる準安定原子の挙動を明らかにする。 全反射配置(近接場光)発光スペクトル計測とレーザー励起を組み合わせたレーザー誘起近接場蛍光分光法を構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
レーザー光源として用いることにした分布帰還型半導体レーザーと垂直共振器面発光半導体レーザーで十分広い発振波長範囲が得られたため、DA変換を介したパソコンによる制御で安定した波長掃引が得られた。そのため、当初購入予定のレーザー波長掃引用の任意信号発生器については購入せず、経費を節約した。また、大気圧低温プラズマジェットに対する全反射配置発光スペクトル計測で興味深い現象が観測され、翌年度に行う成果報告およびさらに詳しく調べるために必要な試料ガスおよび関連消耗品の費用を翌年度に繰越すことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
大気圧低温プラズマジェットに対する全反射配置発光スペクトル計測や半導体レーザーによるマイクロ領域のプラズマ空間分解分光について、引続き研究を行うとともに国際会議等での成果報告に積極的に取組む。さらに両者を融合した研究を加速する。
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