研究課題/領域番号 |
15K13608
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
浜口 智志 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60301826)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | プラズマ医療 / 活性酸素 / 酸化ストレス / 代謝モデル / 数値シミュレーション / 代謝流速均衡解析 / 大腸菌 |
研究実績の概要 |
代謝シミュレーション、特に、ゲノムスケール代謝モデル(GSMM)シミュレーションとは、生物内の代謝反応ネットワークをゲノム情報に基づいて記述したモデルの数値シミュレーションであり、現在、発展目覚ましいシステム生物学の根幹をなす技術の一つである。GSMMシミュレーションを用いることにより、外部からの酸化ストレス等が、生物の代謝に与える影響を詳しく調べることが可能である。本研究では、GSMMの研究が、最も進んでいる大腸菌(E. coli)を例にとり、プラズマ照射による大腸菌の代謝反応変化(ストレス生成)を解析するシミュレーション・システムを構築し、これにより、プラズマ医療の大きな課題である、低温大気圧プラズマ照射による滅菌作用の生物学的機構を定量的に解明する方法論を確立することを目的とする。この研究で得られる知見をもとに、将来は、プラズマ滅菌機構の実験的研究の更なる進展と、人体等動物細胞に対するプラズマ照射の生理学的影響を定量的に解析するプラズマ・GSMM連成シミュレーション技術の開発への発展が期待される。初年度の研究においては、本研究代表者が過去におこなった、液中に存在する大腸菌の不活化研究を念頭において、プラズマ照射条件から、液中の反応活性種(ROS/RNS等)濃度の時間依存性シミュレーションを行い、生成される活性種がどのように大腸菌の代謝応答に影響するかを明らかにする数値シミュレーション・システムの構築をおこなった。具体的には、大腸菌のGSMMシミュレーションコードiJO1366 およびCOBRApyを導入し、大腸菌内の鉄硫黄クラスターを含む酵素フマラーゼ、アコニターゼ、DHAD]がスーバーオキシドアニオンラジカルO2-により不活化する際の代謝シミュレーションを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
プラズマにより生成された活性酸素・活性窒素は、細菌等の生物に接触すると、様々な酸化ストレスを与える。このような生体へのプラズマ照射効果についてより詳細な知見を得るためには、細胞の内部まで含めた現象を解明する必要がある。代謝工学においては、有用な代謝物の増産などを目的として代謝流速均衡解 (FBA)による生体内の反応解析が広く用いられており、特に、大腸菌に関してはCOBRApyと呼ばれるシミュレーショツールが公開されている。FBAでは、化学量論と代謝流量とに着目し、定常状態における代謝ネットワーク中の各反応フラックスを計算する。これら細胞内反応フラックス(代謝フラックス)分布は、細菌や酵母の場合、与えられた条件(細胞内へ流入する炭素源や金属イオンなどのフラックス、遺伝子や特定の代謝反応のノックアウトなど)において増殖率が最大となるように決められる。FBAは対数増殖期のような定常状態を仮定しているため、代謝の動的な応答は計算できないが、酸化ストレスを反映した適当な条件の下で計算することで、本研究にも適用可能であると考えられる。これまでの研究では、大腸菌内に誘起、もしくは導入されたスーパーオキシドアニオンラジカル(O2-)が[4Fe-4S]タイプの鉄-硫黄クラスターを含有する酵素を攻撃することから、これらの酵素の関与する代謝パスがプラズマ照射によって損傷を受けたと仮定し、その度合いに応じて大腸菌増殖率を計算することで、プラズマ照射の影響を解析した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、COBRApyコードを、様々なプラズマ生成条件下で実行し、プラズマパラメータと大腸菌の代謝反応を明らかにし、モデル予測と、大腸菌のプラズマ照射による不活化データとを比較する。特に、大腸菌の各種変異によって生成されるO2-の量の変化は、同コードより評価することが可能である。プラズマ照射により生成される活性酸素を、どのようにGSMMシミュレーションに導入するかは、実験的に不明なことが多いため、容易に解決できる問題ではないが、適当な仮説のもとに、外部条件と大腸菌内の活性酸素量の関係を仮定し、上記シミュレーションを実行する。多くの仮説のもとで実行するシミュレーションは、結果における不確定要素が多いものの、プラズマ照射による大腸菌不活化機構を正しく理解するために注目すべき生体内反応パスに対して重要な示唆を与えることが期待される。
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