研究課題/領域番号 |
15K13610
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
難波 愼一 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00343294)
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研究分担者 |
遠藤 琢磨 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00211780)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 大気圧熱プラズマ / カスケードアーク放電 / プラズマウィンドウ |
研究実績の概要 |
金属のように大気と真空を隔てる圧力隔壁となる一方,荷電粒子や光は自由に通過できる魔法のような物質を生み出すのがプラズマウィンドウである.このバーチャルな壁は高気圧アーク放電により実現される.本研究ではプラズマウィンドウとしてこれまで採用されてきた電極構造を大幅に見直すことにより,大気と真空(1mTorr)の圧力勾配を僅か120 mmの距離で実現する小型・長時間運転可能な装置を開発する.実用化すれば,電子ビーム溶接やイオン注入,エッチングが大気中で可能になり,さらには軟X線顕微鏡に適用すれば生きたまま細胞観測ができる強力な研究手法を提供できる. 今年度は新たに従来の半分程度の大きさのカスケードアーク放電源を設計・製作した.その製作コストはアイントホーヘン工科大の1/10程度である.低コストの最大の要因は高価な無酸素銅を一切使用せず,熱負荷に曝される電極にはモリブデンを用いたことにある.大気圧と真空との高性能圧力隔壁を実現するため電極径は3mmとし,すべての電極は5気圧水冷にて冷却している.また,放電電流は電源を増設することにより,これまでの20Aから最大100Aまで可能とした.実用的なプラズマウィンドウには磁場印加は装置の大型化に繋がるため,無磁場環境下でプラズマを発生させる方式とした. アルゴンにて放電をスタートさせたところ,自己加熱にて陰極温度を熱電子放出可能な条件まで瞬時に移行することが判明した.このことは補助電源が不要になるため,プラズマウィンドウの低コスト化に向けた大きな前進である.また,装置特性で最も重要な大気側と真空側の圧力隔壁性能であるが,僅か30Aの放電電流で大気側1480mbarに対し真空側0.46mbarを実現し,その圧力比30000という極めて高い数値が得られた.これは世界最高性能の値である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初考えていた電極長さ120mmよりも短い100mmの装置において,且つ,放電電流も100Aではない僅か30Aで,当初の目標値以上の大気側・真空側圧力比30000を実現できた.総合的に判断すると目標の10倍程度の圧力隔壁を実現できるはずである.
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今後の研究の推進方策 |
当初の目標値を大幅に上回るプラズマウィンドウの開発に成功している.ただし,長時間運転に対する課題が残っている.実際,開発した装置の形状・寸法,材質は必ずしも最適化されておらず,放電の持続時間は現時点では15分が限界である.この最大の原因は絶縁部品の材質選定を誤ったためである.今後,より高融点材の材質へと変更することで長時間運転,具体的には連続200時間稼働を一つの指標として開発を進めていく.
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