本研究では、テラヘルツラマン分光法と表面増強ラマン散乱(SERS)を組み合わせ、燃料電池カソードで起こる酸素還元反応(ORR)や蛋白質・酵素など生体高分子を電極に固定した状態で駆動される電極反応などに応用することを目的としている。本年度は、ヘリウムネオン(He-Ne)レーザーを光源とし、超狭帯域ノッチフィルターを組み合わせた顕微光学系を従来のラマン顕微鏡の反射部に組込むことで、テラヘルツラマン顕微鏡を構築できた。また、785 nm励起の光学系も別途構築し、複数波長でテラヘルツラマンスペクトルを得られる状況になった。 異方性を有する金属ナノ構造のフォノンバンドを評価することができるかどうかを明らかにするため、AuナノロッドやAuクラスタにおけるテラヘルツラマン測定を実施したところ、いずれの場合も200 cm-1までの範囲に複数のバンドを観測できた。特にAu8クラスタについては、配位子が異なっても骨格構造が一定の場合は同様のスペクトルが観測された。今後、これらについては、振動計算との比較を行う他、電位を印加したり、光による形状変化など摂動をくわえた際の変化を追跡する。また、燃料電池カソードに利用可能な高性能・高耐久性が期待されているPtNiナノフレームについても計測を行ったが、明確なバンドは観測されていない。今後、Au基板上にPtナノフレームを固定したギャップモード型表面増強を利用した計測を行いたいと考えている。それが実現できれば、反応中のラマンバンドの変化に着目した計測が可能になるだろう。 また、高分子薄膜についてもテラヘルツラマン計測を行ったが、今のところ分子間相互作用に基づくバンドは観測できていない。周辺の環境を変えて、湿度や温度に変化をくわえる改造が必要かも知れない。
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