本研究課題は、室温で非常に低い蒸気圧を持つイオン液体を接触角測定プローブとして用いることで、真空中で調製された試料上における接触角を大気暴露することなく測定する装置を開発し、大気中での接触角測定において問題となっていた、意図しないガス吸着や汚染等の外因的な要素を最小限に抑え、試料のイントリンジックな固体とイオン液体の界面相互作用を評価することを目的としている。 H27年度は、まず「in situ超高真空接触角測定装置」を設計・開発した。この装置は、前処理・成膜チャンバーで調製した試料を大気暴露することなく接触角測定チャンバーまでトランスファー可能で、イオン液体は真空中に設置した容器から、窒素ガス導入による圧力差を利用して吸引・滴下される。滴下時は10^-6 Torr以下の真空下で滴下可能となっている。 この装置を用いて、酸素中や真空中で前処理した単結晶二酸化チタン基板上での様々な異なる表面張力をもつイオン液体の接触角を測定した。その結果、酸素中で前処理した基板上において、窒素中暴露では真空中で測定した接触角から大きな変化が見られなかったのに対し、大気暴露により明らかな接触角の増大があった。UV照射で接触角は低下することから、大気暴露による炭化水素等の表面汚染の影響が明瞭に観察されたと考えられ、本装置がイントリンジックな接触角の測定に有用であることが示された。さらに、これまでの報告と異なり、ほぼ同じ表面張力をもつイオン液体であっても、疎水性と親水性の違いによって、異なる接触角を示すことが分かった。また、真空加熱で還元された基板上では、酸素中で前処理した基板上よりもZismanプロットから求めた臨界表面張力が小さくなった。これらの結果から、イオン液体と二酸化チタンの界面相互作用を理解する上では、液体と固体の表面張力だけでなく、極性相互作用等の影響を考慮する必要があると考えられる。
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