研究課題/領域番号 |
15K13615
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 正彦 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (80241579)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 化学物理 / 原子・分子物理 / 電子線散乱 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、研究代表者らが世界で初めて開発した時間分解電子運動量分光技術を、レーザー電場下の原子分子を対象とする「レーザー支援電子運動量分光」へと展開し、強い光子場の中での原子分子の電子構造と電子波動関数形の立体的形状を観察する手法として開発・確立することである。これにより、近年のレーザー技術の進展でもたらされた新しい形の「光と物質との相互作用」の本質的理解に挑み、さらには化学反応や物質変換の光制御という応用面に資する基礎的概念の構築を試みる。 上記の目的に向けて、本研究計画初年度の平成27年度は実験基盤となる時間分解電子運動量分光装置が東日本大震災耐震改修工事により稼働不可となった状況であったので情報収集を精力的に行ったが、平成28年度には実験を開始することが可能となった。しかし、分子線強度を数倍にした実験でも、目的とするレーザー支援電子運動量分光信号を明確には検出することができなかった。そこで、海外協力研究者と共同で、種々の実験条件下での原子のドレスト状態を対象としたレーザー支援電子運動量断面積計算を行い、現有のレーザーシステムを用いて信号を得るには装置の時間分解能を大幅に改善しなければならない、との理論的示唆を得た。この理論的予測を踏まえて、時間分解能を劣化させる最大の要因である、ポンプ光とプローブ電子線の速度差に起因するvelocity mismatch効果を最小化するため、回折格子を利用してポンプ光の波面を傾けるシステムを開発した。他方、昨年度に引き続き、レーザー支援電子運動量分光理論の分子系への拡張を図っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
理論面ではおおむね順調に進展しているものの、実験面では以下の2つの理由によりやや遅れている。一つは、本研究計画初年度の平成27年度は実験基盤となる時間分解電子運動量分光装置が東日本大震災耐震改修工事により稼働不可であったため、1年のビハインドを負うことを余儀なくされたこと。二点目は、ドレスト状態を生成するための現有レーザーシステムに関して、経年劣化がその理由と思われる、予期せぬ複数のトラブルが生じたこと。
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今後の研究の推進方策 |
回折格子を利用してポンプ光の波面を傾けるシステムを立ち上げ、装置の時間分解能を大幅に改善する。またこれと並行して、ドレスト状態を生成するためのレーザーシステムが安定に稼働するよう、一部オーバーホールを行う。これにより、所期の目的であるレーザー支援電子運動量分光の開発に挑戦する。
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次年度使用額が生じた理由 |
二つ理由がある。一つは、上記のように、本研究計画初年度の平成27年度は実験基盤となる時間分解電子運動量分光装置が東日本大震災耐震改修工事により稼働不可であったため情報収集に集中したこと。もう一つは、平成28年度にはレーザー支援電子運動量分光データを得るために時間分解能の大幅な改善を行うための設備を整備したが、この整備費として採択された事業所内競争的資金で充当できたこと。
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次年度使用額の使用計画 |
ドレスト状態を生成するための現有レーザーシステムが安定に出力できるように、ダメージを受けている光学結晶等を入れ替えるなどの改良に主として使用する。
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