液体や固体の表面の振動スペクトルを選択的に測定するための新しい方法,シングルチャンネルヘテロダイン検出和周波発生(HD-SFG)分光法を開発した.この方法ではサンプルの表面からの和周波信号光と位相制御された局部発振器光との間の光干渉を利用する.シングルチャンネルHD-SFGでは干渉測定と分光測定がIRレーザーを特定の波数範囲でスキャンすることで同時に実行される.これにより既存の位相敏感和周波発生分光法に比べて測定に要する時間が大幅に短縮される。また,既存のマルチプレックスHD-SFGより約6倍優れた 4 cm-1という高い波数分解能を達成した.これを利して,水の表面のフリーOHを研究した.水の表面の振動スペクトルは,長い間OH伸縮が最も徹底的に研究され,さらに最近ではHOH変角やlibrationの研究も報告されている.そのような中で,フリーOH伸縮バンドの低波数側3640 cm-1付近の幅の広い小さなバンドの帰属は不明のまま残されていた.H2O表面のスペクトルでは,3697 cm-1のフリーOHバンドの低波数側に問題の3640 cm-1バンドが見られる.D2Oで3倍希釈した表面のスペクトルでは,3640 cm-1バンドはほぼ消失する.フィットによって得たフリーOHの単一ピークの面積比(希釈水/純水)は0.49となった.これは希釈比から期待される値1/3を大きく超え,一見矛盾であるが,3640 cm-1バンドまで含めて面積比をとると0.31となり,希釈比と整合する.このことは,3640 cm-1バンドがフリーOHから強度を借りて現れていることを意味する.このintensity borrowingの最も自然な機構は,結合音とフリーOHの間のフェルミ共鳴である.ここで結合音とは,~ 3450 cm-1の水素結合OHの伸縮と~ 200 cm-1の低波数分子間振動の結合音である.
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