本研究では、金クラスターに対して電子供与性を示す配位子を探索し、これを金クラスターに吸着して電子を注入することで、活性サイトの面積の減少による活性の低下を補償しながら、高活性と高選択性の両立と制御を目指した。得られた成果は下記の通りである。 【金クラスターと水素の相互作用】我々はすでに、ポリビニルピロリドン(PVP)で保護された直径1.2 nmの金クラスターがNaBH4の共存下で、局所表面プラズモン(LSPR)吸収を示すことを報告した。この現象は、NaBH4由来の水素が金クラスターに対して電子供与性の配位子として働くことを示唆している。これを検証するために、ホスフィンで保護されたAu9クラスターにヒドリドを吸着させ、理論計算及び1H-NMRによって水素と金クラスターの相互作用を調べた。その結果、水素は配位子としてではなくむしろ金の等価体として働くこと、さらに吸着した水素は金や銀などの金属と置換が可能であることを見出した。これは、吸着水素を媒介とした、金属クラスターの新しい精密合成法の開発につながるものと評価できる。 【担持金クラスターに対する表面修飾】高比表面積炭素上でAu144(SR)60を焼成することで、担持金クラスターAu144/Cを調製した。有機配位子の種類と被覆率を系統的に制御しながら、ベンジルアルコールの空気酸化をモデル反応として性能評価を行った。金属クラスターに対する電子供与性配位子として期待したエチルピロリドンなどの添加効果は観測されなかったが、過剰なチオールを加えた際にも特異な選択性を示す活性サイトが得られることを見出した。
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