研究課題/領域番号 |
15K13621
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
酒井 誠 岡山理科大学, 理学部, 教授 (60298172)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 赤外顕微分光 / タンパク質 / 発色団 / 超解像 / フラビン |
研究実績の概要 |
本研究では、申請者らの開発した過渡蛍光検出赤外超解像顕微鏡法の高感度かつ高空間分解能の特性を利用して、蛍光タンパク質の発色団の赤外スペクトルの測定を実現できないかと考えた。具体的には、顕微鏡条件下において、試料セル表面のごく近傍の領域に赤外光を集光し、さらに可視光を入射することで蛍光タンパク質発色団から生じる過渡蛍光(詳細は後述)を検出する。このとき、1)過渡蛍光は発色団部位からのみ発生し、タンパク質の他の部位からは発生しない、2)赤外光を波長掃引する、ことにより赤外吸収スペクトル測定の実現を目指した。 平成28年度は、平成27年度に蛍光色素であるローダミン6Gを試料に用いて、水溶液においても過渡蛍光の検出および赤外スペクトルの測定に成功した事を受けて、元来フラビンタンパク質(発色団:フラビン)やロドプシン(発色団:レチナール)等の蛍光タンパク質に対して過渡蛍光の検出および赤外スペクトル測定を試み計画であったが、研究代表者(私)が平成28年4月に東京工業大学から岡山理科大学に異動した事に伴い、実験環境が大きく変化したため、研究進捗に遅れが生じた。しかしながら、蛍光タンパク質の発色団の1つであるフラビン分子を対象に過渡蛍光の測定を試みた結果、過渡蛍光の信号検出に成功するとともに、赤外スペクトル測定にも成功した。この結果は、少なくともフラビンタンパク質に対して過渡蛍光の検出が可能である事を示唆する結果であり、次年度以降に繋がる極めて重要な成果が得られたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年4月に研究代表者(私)が東京工業大学から岡山理科大学に異動に伴い実験環境が大きく変化した。具体的には、実験装置は東京工業大学が所有、研究代表者は岡山理科大学の所属と遠距離になったため研究を強力に推進する事が困難となり、研究の進捗に遅れが生じた。具体的には、元来フラビンタンパク質(発色団:フラビン)やロドプシン(発色団:レチナール)等の蛍光タンパク質に対して過渡蛍光の検出を試み計画であったが、タンパク質の発色団の1つであるフラビン分子を測定対象とするに留まった。そのため、研究期間を平成29年度まで延長し、当初の研究成果目標を達成する計画を立てた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、フラビンタンパク質(発色団:フラビン)やロドプシン(発色団:レチナール)等の蛍光タンパク質に対して過渡蛍光の検出を試みる。過渡蛍光は発色団部位からのみ発生し、タンパク質の他の部位からは発生しないと考えられるため、発色団の赤外情報のみを抽出できるはずである。加えて、赤外光を波長掃引することにより発色団部位の赤外吸収スペクトル測定の実現を目指す。 本研究手法は、振動準位を経由して蛍光を観測する過渡蛍光検出赤外分光法を利用しているため、赤外光と可視光の遅延時間を調節して行うピコ秒時間分解測定により、振動緩和過程が必ず同時に観測される利点を兼ね備えている。蛍光タンパク質の場合、発色団部位から他の部位への振動緩和に伴うエネルギー移動が観測されることが期待される。よって、本研究手法よる蛍光タンパク質発色団部位の赤外情報抽出が実現すれば、近年次々と新規開発されている蛍光タンパク質の発色団構造解析さらには光変換機構解明に極めて有効であることが期待される。これまでは、蛍光タンパク質の発色団構造解析には紫外共鳴ラマン分光(可視共鳴ラマンでは発色団からの強い蛍光のため測定が困難であるため)が唯一の方法であったが、紫外共鳴ラマンでは発色団部位の他、タンパク質に含まれる複数のアミノ酸のバンドが同時に観測されてしまう欠点があり、発色団のみのスペクトル測定は困難を極めた。本研究手法は発色団からのみ生じる強い可視蛍光を赤外吸収スペクトル測定に利用するため、発色団以外の部位の赤外情報は全く含まれない、赤外共鳴分光とも言うべき優れた手法であり、是非とも実現したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、岡山理科大学所属の研究代表者が東京工業大学所有の実験装置を利用するために、実験を行うための出張旅費が主な支出となった。その一方で、長期滞在による実験を行う時間的余裕が困難であったため、実験に必要な消耗品等の支出が少なかった。そのため、結果的には支出総額を抑える事が出来た。これにより、研究期間の延長分に相当する平成29年度(次年度)に研究推進するための予算を使用することが可能となった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度8月に研究推進に利用する実験装置を東京工業大学から岡山理科大学へ移設する計画を立てている。そのため、装置移設前の期間は東京工業大学と岡山理科大学間を頻繁に移動する予定(出張旅費として計上)である。一方、装置移設後の期間は精力的に実験を行うための消耗品費を予算計上した。
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