本研究では、申請者らの開発した過渡蛍光検出赤外超解像顕微鏡法の高感度かつ高空間分解能の特性を利用して、蛍光タンパク質の発色団の赤外スペクトルの測定を実現できないかと考えた。具体的には、顕微鏡条件下において、試料セル表面のごく近傍の領域に赤外光を集光し、さらに可視光を入射することで蛍光タンパク質発色団から生じる過渡蛍光(詳細は後述)を検出する。このとき、1)過渡蛍光は発色団部位からのみ発生し、タンパク質の他の部位からは発生しない、2)赤外光を波長掃引する、ことにより赤外吸収スペクトル測定の実現を目指した。その一方で、平成29年8月に研究推進に利用する実験装置を東京工業大学から岡山理科大学へ移設したことにより、装置再構築による性能再評価も行ったため、タンパク質の発色団であるフラビンを含めた蛍光生生体試料の水溶液中における赤外スペクトル測定および振動緩和過程の観測を優先し、多くの基礎データを収集できた。これらの結果は、フラビンタンパク質(発色団:フラビン)やロドプシン(発色団:レチナール)等の蛍光タンパク質における発色団の赤外スペクトル測定に大いに役立つデータと考えている。これまでは、蛍光タンパク質の発色団構造解析には紫外共鳴ラマン分光(可視共鳴ラマンでは発色団からの強い蛍光のため測定が困難であるため)が唯一の方法であったが、紫外共鳴ラマンでは発色団部位の他、タンパク質に含まれる複数のアミノ酸のバンドが同時に観測されてしまう欠点があり、発色団のみのスペクトル測定は困難を極めた。本研究手法は発色団からのみ生じる強い可視蛍光を赤外吸収スペクトル測定に利用するため、発色団以外の部位の赤外情報は全く含まれない、赤外共鳴分光とも言うべき優れた手法であり、今後の発展に期待する。
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