拡散係数は分子の大きさや溶媒との相互作用に依存し、溶質分子の物性をよく反映する物理量である。蛋白質においてもその構造や会合状態の変化によって拡散係数が顕著に変化することが明らかになっており、蛋白質全体の動きを捉える上で有用な指標になりつつある。そこで本研究では拡散係数測定に有効な光誘起過渡回折格子法を発展させることを目指した。 そのためにストップトフローシステムを独自に開発し、過渡回折格子法と組み合わせることで従来は困難であった光反応性を持たない蛋白質の反応検出を行った。新規に立ち上げたストップトフローシステムは、サンプル消費量、デッドタイム、混合効率など従来システムを上回る性能を有することを確認した。これを用いて、まず光センサータンパク質の変性ダイナミクスを捉え、さらに光反応性のない時計タンパク質の集合反応ダイナミクスを調べた。結果、変性により機能を失う過程を光反応性の消失として捉えることに初めて成功し、また時計タンパク質KaiCの6量体形成反応を時間分解で捉えることにも成功した。こうした分子構造変化や離合集散反応はタンパク質機能に重要な反応であり、今後様々な系に適用可能なシステムの開発に成功した。 さらに多孔スリットから縞状の蛋白質溶液噴射を溶媒中で行い、これによって形成される過渡的な回折格子の消滅過程(蛋白質分子の拡散過程)を回折光強度の時間変化として検出することも試みた。しかし、回折光は検出されたものの、噴射に伴う乱流を完全に抑えることが出来ず、再現性の高い測定は困難であった。流体シミュレーションを基に、噴射速度やスリットのデザインの調整も行ったが、得られる拡散係数が文献値と大きく異なり、自由拡散を捉えることはできなかった。
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