複雑な多自由度系の反応ダイナミクスの研究には、散乱部分波共鳴の多次元構造の直接観測が極めて有効であると期待される。この観測には反応分子間の相対配向を制御したもとでの極低衝突エネルギー実験が必要である。この実現には、2つの分子線を浅い角度で衝突させるいわゆる合流型分子線衝突が有効である。この実現のために湾曲不均一磁場によるラジカル種の偏向装置を試作した。原理的には、ターゲット分子線と合流角0度で衝突することが可能であるが、一方で、実際に2つのラジカル分子線の初期衝突角を30度以内で交差することができないため、偏向角30度の実現をめざした。この手法の実現に向けて、湾曲したコイル様四極子分子偏向器を設計試作し、研究手法の問題点を見出すことを試みた。準安定希アルゴン原子を用いて、試作した湾曲不均一磁場による変位に基づく速度選別の程度を求めた。試作したCW装置では、通電加熱のため十分な偏極変位を得られなかった。十分な磁場強度を得て加熱を抑えるため、GBTモジュールを用いた大電流(400A)のパルス(10マイクロ秒)駆動可能なパルス電源を試作した。その結果、実用レベルの十分な偏極を得ることが可能となった。一方で、切り出しコリメータースリット径を0.1mmまで小さくしないと合流角ゼロにおいても選択分子線の速度幅を十分小さくできず、散乱部分波共鳴の観測に十分な速度選別できないことが分かった。実用レベルの分子線強度を実現するには、ある程度の分子線の初速度の冷却を併用するが必要であることが分かった。
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