本研究では、近紫外領域(350nm)~可視領域~近赤外領域(1000nm)の広い波長領域を有する白色光パルスを励起光と検出光の両方に使うことで、これまでに無い超広領域2次元時間分解過渡吸収スペクトル測定システムを構築し、そのシステムを2次元の2パルス相関計測まで応用することを目的とする。システムの作製において近紫外~近赤外の超広領域の2次元分光を行う為に、励起光は掃引型のタンデムファブリー・ペロー干渉計を通して波長毎に異なる周波数で変調すること各励起波長に異なるマーキングを施し、検出光(350nm~1050nm)はフォトダイオードアレイ分光器を使って、干渉計のミラー間隔毎に透過スペクトルの同時露出観測を行った。 初年度に構築した定常発光キセノンランプを光源としたシステムをアゾベンゼン誘導体の光異性化反応に適用しシステムの2次元過渡吸収スペクトルへの有効性を検証した。その結果、得られた2次元過渡吸収スペクトル上に複数の過渡ブリーチング及び過渡吸収ピークが観測された。量子化学計算の結果と比較することで、観測されたピークが異なる経路を通る多段階多光子の反応経路によるピークであることを明らかにした。こうして、作製したシステムを使って時間分解測定を行うに当って、フェムト秒パルスの再生増幅器を励起光源としてコヒーレント白色光を発生させたところ、得られた白色パルスの安定性が励起パルス・検出パルス共に2次元スペクトルを得るためには不十分であった。そのため、次善の策として光源をキセノンフラッシュランプに交換することで、十分な安定性と十分な波長領域を確保したシステムとした。このシステムを用いて、代表的な酸塩基指示薬の一つであるメチルレッドの光異性化反応について検討した結果、異なる寿命を持つ2種類の光異性化状態が異なる励起波長で生成することを観測することに成功した。
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