研究実績の概要 |
本研究で開発した安定ジシレンから安定ジシレニド(ジシレンのアニオン)への変換反応を用いて合成したテトラシラ-1,3-ジエンの熱および光反応でそれぞれ異なる立体配置を持つシクロテトラシレンを与えることを見出した。すなわち熱反応では逆旋的に閉環した生成物を与えるのに対して、光反応では同旋的に閉環した生成生物を与えることを見出した。1,3-ブタジエンやシクロブテンの間の電子環状反応は実験的理論的に詳細な研究があるが、ケイ素化合物においても軌道対称性が保存された電子環状が反応が進行することを実験的に突き止めた。 ケイ素-ケイ素二重結合の1,2位にジシレニドに変換可能な置換基が導入されたジシレンに対して段階的に新たな官能基を導入することに成功した。特にボリル基の導入では、途中で生成する生成する一置換体を単離することなく一容器内で段階的に2つボリル基を導入することができ、この反応の有用性を確かめることができた。 関連して電子供与基であるアミノ基および電子求引基であるボリル基が同時にケイ素-ケイ素二重結合上に導入されたジシレンを合成することに成功し、電子供与基と電子求引基とケイ素-ケイ素二重結合とが有効に相互作用し共役が拡張されていることを紫外可視吸収スペクトルと単結晶X線結晶構造解析から明らかにした。さらにこのジシレンは一気圧の水素分子と速やかに反応し、ジシレンに対して2分子の水素分子が付加した生成物を与えることを見出した。そして理論計算により、この反応がケイ素-ケイ素二重結合とホウ素上の空の軌道が水素分子を活性化していることを突き止めた。 本研究によりケイ素-ケイ素二重結合種の骨格および官能基の多様性を向上させる新たな方法論の開発に成功し、ケイ素からなる拡張π電子系創出の新たな基盤を構築することができた。
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