研究課題/領域番号 |
15K13635
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
石田 真太郎 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (90436080)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 反芳香族性 / ジシラシクロブタジエン / ジシリン / 速度論的安定化 |
研究実績の概要 |
[1] 単離可能なジシリンとジブロモアレーン(アミノ基を持つ1,2-ジブロモベンゼン誘導体、ジブロモチオフェンおよびジブロモピリジン)との混合物を還元することで、ジシラシクロブタジエン誘導体の合成検討を行った。しかし反応は複雑であり、目的とするジシラシクロブタジエン誘導体は得られなかった。 [2]π拡張型のジシラシクロブタジエン誘導体の合成検討を進めた。単離可能なジシリンと2,3-ジブロモナフタレンを用いて還元反応を行うことで、対応するナフトジシラシクロブタジエンを安定な化合物として単離することに成功した。この化合物の炭素π電子系はベンゾジシラシクロブタジエンのものより拡張しているにもかかわらず、その最長波長吸収帯は短波長シフトしていた。この原因を分子軌道から考察し、ジシレン部位と芳香環部位との軌道間相互作用により説明出来ることを明らかにした。また、ナフトジシラシクロブタジエンの1H NMRスペクトルでは、ナフタレン環上のプロトンの高磁場シフトが認められた。これはジシレン部位がナフタレン環の反磁性環電流を減少させていることを示している。 [3]以上の結果を受け、本課題を進める上でベンゾジシラシクロブタジエン合成の反応機構を明らかにする必要があると考えた。そこで1,2-ジブロモベンゼンを用いた反応の詳細な生成物解析を行った結果、シラシクロプロパベンゼンやベンゾジシラシクロブテン骨格を持つブロモシラン類、ビフェニレンが副生していることが分かった。これらの副生成物の存在は、反応にベンザインが関与している事を示している。そしてシラシクロプロパベンゼン部位を持つジブロモシランを還元するとベンゾジシラシクロブタジエンが生成することを確認した。ベンザインの関与を明らかにした事は、今後種々の置換基を持つベンゾジシラシクロブタジエンを合成する上で極めて重要な知見と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで合成に成功しているベンゾジシラシクロブタジエンは、二つの不飽和ケイ素が化学的に等価であるもののみであり、非対称置換型のベンゾジシラシクロブタジエン誘導体の合成は現在の所成功していない。一方、今年度はナフトジシラシクロブタジエンの合成に成功し、構造及び分光学的データの取得に成功した。先に解明したベンゾジシラシクロブタジエンと性質を比較することで、特徴的な最長波長吸収帯の短波長シフトなど、興味深い性質を明らかにすることができた。また、ベンゾジシラシクロブタジエンの合成反応にベンザインが関与している事を生成物解析から明らかにした。この結果は本課題の遂行に関して重要な知見である。以上の様に、予想以上に研究が進展した部分もあれば、まだ解決していない問題もある。そのような状況を総合的に判断し、進捗状況はおおむね順調に推移していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
[1]ベンザインの関与が明らかになったので、基質および反応条件の最適化による非対称置換ベンゾジシラシクロブタジエンの合成に挑戦する。具体的にはベンゼン上のハロゲン基の変更、反応温度をより下げるなどの工夫を行う。 [2]1,2-ジブロモナフタレンや1,8-ジブロモナフタレンを原料にしたナフトベンゾジシラシクロブタジエンやジシラアセナフテン等のナフタレン縮環ジシレンの合成を行い、縮環部位に依存した性質の変化、ジシレン部位が環電流に与える影響の解析などを行う。 [3]併せて、テトラブロモベンゼン、テトラブロモビフェニル、テトラブロモナフタレンを基質として用いる事で、ジシレン部位を複数持つ縮環ジシレンの合成を行い、ユニット数の増加による性質の変化、特に芳香族性の変化を構造およびNMRから明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はナフトベンゾジシラシクロブタジエンの合成を中心に進めた。合成単離を割と早い段階で達成し、その後は研究室所有の機器で行える測定等を行った。そのため条件検討に使用した薬品、使用したガラス器具などの種類が比較的少なかった。また、ナフトジシラシクロブタジエンの性質解明に注力したため、進める予定であった各種ジブロモアレーン類の試薬購入量が想定より少なくなった。以上の理由で次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は翌年度分として請求した助成金と併せて適切に使用する。すなわち、物品費は本年度進める予定であった、原料となる各種ジブロモアレーン類、合成・分析に適したガラス器具等、次年度使用する予定の各種試薬等の購入費用として使用する。また、研究成果発表および研究打ち合わせのための旅費、資料作成補助のための人件費、その他学会参加登録費等として使用する。
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