研究実績の概要 |
ハーバー・ボッシュ法により窒素からアンモニアを合成する方法は工業的に極めて重要なプロセスであるが、これに必要なエネルギーは莫大な量である。一方、自然界では、生物による窒素固定がされている。この反応を模した穏和な条件下での窒素固定反応を発見することができれば、エネルギー消費の観点から、窒素の有効利用に関する革命的な知見となる。このような研究はこれまで遷移金属錯体を用いた例のみが報告されているが、一般により安価でユビキタスな典型元素の場合、窒素の固定の研究はおろか、安定な窒素錯体の例さえも知られていない。 今回、窒素分子のエネルギー準位の低いローンペアの配位を可能にする低いLUMOをもち、窒素分子のエネルギー準位が高いLUMOに配位することが可能な高いHOMOをもつ化合物として、反芳香族性を有するシラシクロペンタジエニリデンを設計・合成した。1,7位に今回独自に開発したかさ高い置換基を有する1,6-ペンタジインを合成し、これを用いたジルコナサイクルを経て二環式のジヨードブタジエンを合成した。これをリチオ化したのちに四塩化ケイ素を作用させ、ジクロロシロールを合成した。これを低温においてカリウムグラファイトで還元し、そのまま反応溶液に2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンを加えたところ、シラシクロペンタジエニリデンの生成を示唆する捕捉生成物を得た。従って、今回我々の開発したかさ高い置換基は、シラシクロペンタジエニリデンの安定化に有効であり、シラシクロペンタジエニリデンを安定な化合物として合成・単離するための道筋が拓けた、と結論付けられる。
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