本研究では、分子全体が一つのパイ電子系となっているケージ状分子「フラーレン」と並ぶ新しいケージ状分子ファミリーの創出をめざして、炭素骨格のみで(すなわちヘテロ原子を導入せずに)、多環芳香族分子を正多面体型に組み合わせていく「多環芳香族パネリング」の手法を提案した。この手法の開発の基礎となる、オール炭素骨格の新規なかご型・環状分子の構築法の足がかりとなる知見を得ることを目標とした。 研究の第一ステップとして、10族遷移金属イオンとアルケンのパイ錯体の形成を駆動力とする自己集合について検討した。各種パラジウム(II)および白金(II)錯体を出発物質として、配位子交換により各種ビニル体の導入を試みた。ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等の極性溶媒中ではこの反応は効率的に進行しなかったが、クロロホルム等の低極性溶媒中では、アルケンの配位が起こり、その際にハロゲン架橋の二核構造に変化することが明らかとなった。この条件下でトリフェニルベンゼン骨格を持つトリビニル体配位子のパネリングを検討した。しかしながら、生成物には複数種の錯体が含まれており、特定の構造の多面体を選択的に生成させるのは困難であることがわかった。そこで、もう一つの手法として、10族金属と末端アルキンの錯形成を使った自己集合についても検討した。二級アミンを溶媒とすると各種ジエチニル体のオリゴマー化が進行することが明らかとなり、この条件でオール炭素骨格の環状オリゴマーやケージ状オリゴマーを合成できる可能性があることが示された。
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