研究実績の概要 |
遷移金属同士を有機π電子系で架橋した「dーπ電子系化合物」は、新しい有機機能性材料として期待されるのみならず、混合原子価状態のモデルとして基礎化学的な観点からも注目されている化合物群である。本研究課題では、有機π電子ユニットの新展開として、これまでに無い高周期典型元素π電子系で遷移金属d電子系を架橋した「含高周期元素dーπ電子系」化合物群を合成・単離し、それらの性質を解明することで、高周期典型元素π電子系の電子輸送能の評価と特異なdーπ電子系で架橋した新規なdーπ電子系を標的化合物とした。 特に遷移金属ユニットとして、単離可能でかさ高い立体保護能を持つフェロセニルリチウム誘導体(Fc*Li, Fc*=2,5-ビス(3,5-ジ-t-ブチルフェニル)フェロセニル)を用いることで、モジュラー的に合成可能となることを期待した。まずは、ゲルマニウム上が就職可能なユニークなdーπ電子系としてFc*(I)Ge=Ge(I)Fc*を合成目標として検討を行ったが、その結果期待に反して、フェロセニルユニットが二つゲルマニウム上に導入された新規な炭素置換二価二配位ゲルマニウム化学種であるビス(フェロセニル)ゲルミレンを安定な化合物として合成・単離することに成功した。この化合物は、安定な多段階酸化還元系として機能することを明らかとした。 最終的に、dーπ電子系の創製には至らなかったものの、新しい概念となる、dーp電子系としてビス(フェロセニル)ゲルミレンの合成・単離に成功し、その酸化還元挙動から、今後の新しい多段階酸化還元系構築のモチーフとなるような化合物合成を確立した。
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