研究課題/領域番号 |
15K13647
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
石川 勇人 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (80453827)
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研究分担者 |
松田 真生 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (80376649)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | レドックススイッチング / オルトキノン / ヒドロキノン / ねじれひずみ |
研究実績の概要 |
磁性金属を配位することが可能なピセン誘導体の合成法の確立を行った。ヒドロキサム酸を含有するピセン誘導体に関しては、6π電子環状反応の条件を精査して定量的に進行する条件を見出した。基質合成にまだ問題があるため、大量合成には至っていない。一方、オルトキノンを含有するピセン誘導体の合成はパラジウム触媒によるカップリングと有機触媒によるベンゾイン縮合により効率的に合成できることを見出した。この手法は様々なオルトキノン含有多環芳香族化合物の合成に適用可能な方法となっている。上記の方法で合成したピセン-13,14-ジオンのオルトキノン構造は水素添加反応により還元するとヒドロキノンとなり、このオルトキノン体とヒドロキノン体の間に劇的な光学特性の変化を観察した。この知見を活かし、固体パラジウム触媒による水素添加反応、酸素による酸化反応を組み合わせ、酸素ガスー水素ガスによるレドックススイッチングへと展開した。この手法はガスのエネルギーを多環芳香族化合物の色や蛍光といった光学特性の変化に利用した初めての例となる。加えて、計算化学的手法を駆使して何故色や蛍光の大きな変化が観測されるのかを明らかとした。その結果、多環芳香族化合物のπ共役系の拡張に加えて、オルトキノン部位でのねじれひずみが極めて大きな因子であることを突き止めた。この、計算化学によるひずみエネルギーの算出を駆使して、ひずみのない分子の創製も行った。具体的にはペンタフェン-6,7-ジオンを合成し、その光学特性及びレドックススイッチング機能を調べた。その結果、ペンタフェン-6,7-ジオンは固体状態で赤色蛍光を示す非常に興味深い分子であった。計算化学的推察から分子間相互作用がこの極めて珍しい蛍光特性を示していることが示唆された。上記の成果はAngewandte Chemie, International Editionに掲載が決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画である磁場応答性金属錯体の合成は、配位子の効率的合成法、特に鍵反応の確立は予定通り進行した。加えて、予期せぬ展開として、水素ガスと酸素ガスによる多環芳香族化合物の新しいスイッチング機能を見出すことに成功した。今後合成していく様々な多環芳香族化合物の新たな評価系を手に入れたという意味で大きな価値を持つ。
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今後の研究の推進方策 |
合成法をほぼ確立できたので、様々なオルトキノンおよびヒドロキサム酸含有多環芳香族化合物の合成へと着手する。続いて、磁性金属との錯体合成を行う。作成した金属錯体は磁場と電場による半導体特性を観測する。加えて、今回見出したレドックススイッチング特性も合わせて検討する。一方、オルトキノン化合物に強酸中で得意な芳香族カチオンが生じることを見出しており、その電子状態など構造有機化学的知見を得るために物性測定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はガススイッチングに関する結果が予期せず得られてきたため、そちらを重点的に検討した。本来であれば高額な金属試薬を利用した錯体合成を予定していた。結果として、次年度に使用する予算が発生した。研究計画として、次年度に金属錯体を合成する予定となっており、全体としての予算は必要である。
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次年度使用額の使用計画 |
金属配位能を有する多環芳香族化合物を合成するための原料の購入費および金属試薬の購入を主な物品費として計上する。また、論文投稿費(カラーフィギュア代など)、英文校正費として使用する。
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