研究実績の概要 |
昨年度、見出した芳香族オルトキノン化合物の酸化ー還元スイッチング特性の機能性をさらに広げるべく、オルトキノン構造を組み込んだ[7]フェナセン誘導体の化学合成を行った。市販品から11工程で目的物を合成し、現在、酸化ー還元に起因する光学特性の変化について、詳細に検討している。続いて、磁場応答性を持つ金属部位との錯体形成を検討した。すなわち、オルトキノン部位を還元することにより得られるヒドロキノン体を配位子として用い、磁性を有する鉄との錯体形成を試みた。まず、ピセン-13, 14-ジオンを水素及びパラジウム触媒を用いる接触還元条件により、ピセン-13, 14-ジオールへ変換した。一方、同様の還元反応は、白金電極を用いた電気化学的還元反応でも成功した。得られたピセン-13, 14-ジオールは鉄錯体を合成するため、直ちにペンタカルボニル鉄を作用させ、六配位鉄錯体と思われる黒色結晶を得た。また、磁性は有していないが平面四配座構造を持つことが予想されるNi錯体の合成を合わせて検討した。鉄錯体と同様に、直前に合成したピセン-13, 14-ジオールを速やかに塩化ニッケルで処理し、黒色固体を得ることに成功した。現在、それぞれの錯体の構造を決定するべく、単結晶X線結晶構造解析に向けて、再結晶を検討している。今後、合成した鉄錯体は、電導性と磁性の組み合わせによる新規電子材料創製を目指し、キャリア移動度の測定に加えて、π-d相互作用に起因する電気特性の変化を調べるため、磁場中での測定を行う。
|