研究実績の概要 |
本研究は、ヘキサ-1,3,5-トリインを新たなC6反応試剤として有機合成化学において活用することを目的とする。特に両側の2つのアルキニル基を電子求引性基と考えることにより、ヘキサ-1,3,5-トリインの3,4-アルキン部位を求電子的で活性な反応部位として活用する。予備的な検討として、DFT計算によりMulliken電荷を求めた結果、モノアルキンである1,2-ビス(トリメチルシリル)エチンは、シリル基の電子供与性によりアルキン部分の電荷は-0.11で、求核的であるのに対し、1,3,5-トリインである1,6-ビス(トリメチルシリル)ヘキサ-1,3,5-トリエンの中央のアルキン部分の電荷は+0.28であり、求電子的であることがわかった。そこで、モデル基質として、既に合成法が既知である1,6-ビス(トリイソプロピルシリル)ヘキサ-1,3,5-トリエンを選択し、その反応性を検討した。 まずLindlar触媒を用いて水素添加を行ったところ、予期した通り中央のアルキンのみが選択的にアルケンに還元され、(Z)-ヘキサ-3-エン-1,5-ジイン骨格の構築を達成した。さらに、ロジウム触媒存在下、ヒドロシラン類との反応を検討したところ、中央のアルキンのみが選択的にヒドロシリル化された。 次に、[2+2+2]付加環化反応において1,6-ビス(トリイソプロピルシリル)ヘキサ-1,3,5-トリエンの反応性を検討した。まず、自己三量化によるヘキサアルキニルベンゼン誘導体の合成を行ったが、所望の環化体を得ることはできなかった。そこで窒素架橋1,6-ジインとの分子間反応を行った結果、カチオン性ロジウム、あるいは中性イリジウム触媒を用いた場合に、低収率ながら環化体は得られたが、トリインの転化率が低い上に、所望の3,4-アルキン部分が反応した環化体に加え、1,2-アルキン部分が反応した環化体も生成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シリル置換ヘキサ-1,3,5-トリインをモデル基質として用いることにより、アルキンの典型的な反応である水素添加ならびにヒドロシリル化が、中央のアルキン部分で位置選択的に進行することを見出した。本結果は、1,3,5-トリインの特異の反応を実証できたことに加え、合成中間体として多用されるエンジイン誘導体の新規な前駆体になり得ることを示している。 一方で、当研究室で総括的に検討している[2+2+2]付加環化反応の基質としては反応性が低く、また想定した位置選択的な反応の実現に至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
1年目の検討として、ヘキサ-1,3,5-トリインの両端の置換基として合成的に導入が容易なトリイソプロピル基に限定して検討を行い、還元とヒドロシリル化において、中央のアルキン部分のみが反応した。しかしながらその位置選択性の理由として、電子的要因に加え、トリイソプロピル基の立体的要因を考慮すべきである。そこで2年目は、立体的に小さいトリメチルシリル基、あるいは合成的な利用も視野に入れた1-hydroxy-1-methylethyl基などを置換基として検討する。また、反応としても、これまで検討した[2+2+2]付加環化反応に加え、活性アルケン類との[2+2]付加環化反応、あるいは1,3-双極子との[3+2]付加環化反応についても検討し、ヘキサ-1,3,5-トリインの合成的利用を目指す。
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